私の大好きな彼氏はみんなに優しい

hayama_25

文字の大きさ
94 / 181

第94話

しおりを挟む
「あのさ、遥希くん、」

 私は少しためらいながら声をかけた。

 文化祭の準備のことで頭がいっぱいになっている私は、息抜きすることに少し罪悪感を感じていた。

「んー?」

 遥希くんの優しい声に、少しだけ心が和らいだ。

「今更だけど、学校戻った方がいいんじゃないかな…?」

 心の中で感じていた不安を吐露した。

 文化祭の準備が頭の中でぐるぐる回っていた。

 どうしてこんなにも文化祭に囚われているのかは、私にも分からなかった。

「2時間だけだって。ちゃんと文化祭の準備には出るし大丈夫だよ」

 本来なら授業を受けているはずの時間に、公園にいることがなんだか落ち着かない。

「それは、そうなんだけどさ、」

 遥希くんの優しさに感謝しつつも、自分の立場を考えてしまう。

「あ、もしかして、リラックス出来なかった?」

 早く学校に行きたいみたいに聞こえた?
 誤解させちゃったかな。

「違うよ。すっごく、気が楽になった」

 私は素直に答えた。

 さっきまでは、先輩が私の気持ちを理解してくれないことに対して、苛立ちや悲しみが入り混じった何とも言えない感情に押しつぶされそうだった。

 だけど今は、優しい気持ちになれてる、気がする。
 少なくとも、さっきよりは落ち着いてる。

 学校をサボるなんて、らしくないことをしてるからだろうか。

「それなら良かった」

 遥希くんの笑顔が私の心に温かさをもたらす。

「遥希くんは、どうしてそんなに平然としていられるの?」

 自分が感じている不安と遥希くんの落ち着きのギャップに戸惑いを感じると同時に、

 どうしてこんなにも冷静でいられるのか、その答えを知りたくなった。

「え?」

 遥希くんの表情には少しの驚きが浮かんでいた。

「学校サボったのに、どうしてそんなに普通なの?私なんて心臓バクバクしてるのに、」

「どうせサボるんだったら楽しまないと」

 遥希くんの言葉には少しの無邪気さが込められていた。

「もしかして、遥希くんって思ったよりやんちゃだった?」

 何度も学校をサボったことがある、とか、?
 全く想像つかないけど。

 遙希くんは少し考えた後、ふっと笑った。

「そんなことないよ。俺だって学校サボったのは初めてだから。ただ…心桜ちゃんと一緒だからかな」

 遥希くんの言葉に、少しだけ心が揺れ動く。

「何それ、答えになってないよ」

 私は少し笑いながら答えた。

 結局、理由は分からなかった。
 ただ、私が小心者みたいだ。

「ははっ、確かに」

 …って、違う。
 今はこうして笑いあってる場合じゃない。

 その後のことについて考えないと。

「2時間も遅れて、先生になんて言えば…」

 私は再び不安を口に出した。

「確かに言い訳も必要だよね。うーん…どうしようか?俺も学校サボったことないから分からないや」

 焦っているのは私だけみたいだ。
 私がどうにかしないと。

「もう。なんの計画もなしにサボろうなんて」

「つい、」

 ついって…

 そっか、私のせいか。


「…ごめんね、」

 私が、あんな顔してたから。



 きっと何かあったんだって、遥希くんなりに慰めてくれたんだよね。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

幼馴染の許嫁

山見月 あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

大丈夫のその先は…

水姫
恋愛
実来はシングルマザーの母が再婚すると聞いた。母が嬉しそうにしているのを見るとこれまで苦労かけた分幸せになって欲しいと思う。 新しくできた父はよりにもよって医者だった。新しくできた兄たちも同様で…。 バレないように、バレないように。 「大丈夫だよ」 すいません。ゆっくりお待ち下さい。m(_ _)m

王宮に薬を届けに行ったなら

佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。 カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。 この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。 慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。 弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。 「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」 驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。 「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

振られた私

詩織
恋愛
告白をして振られた。 そして再会。 毎日が気まづい。

友達の肩書き

菅井群青
恋愛
琢磨は友達の彼女や元カノや友達の好きな人には絶対に手を出さないと公言している。 私は……どんなに強く思っても友達だ。私はこの位置から動けない。 どうして、こんなにも好きなのに……恋愛のスタートラインに立てないの……。 「よかった、千紘が友達で本当に良かった──」 近くにいるはずなのに遠い背中を見つめることしか出来ない……。そんな二人の関係が変わる出来事が起こる。

「君の為の時間は取れない」と告げた旦那様の意図を私はちゃんと理解しています。

あおくん
恋愛
憧れの人であった旦那様は初夜が終わったあと私にこう告げた。 「君の為の時間は取れない」と。 それでも私は幸せだった。だから、旦那様を支えられるような妻になりたいと願った。 そして騎士団長でもある旦那様は次の日から家を空け、旦那様と入れ違いにやって来たのは旦那様の母親と見知らぬ女性。 旦那様の告げた「君の為の時間は取れない」という言葉はお二人には別の意味で伝わったようだ。 あなたは愛されていない。愛してもらうためには必要なことだと過度な労働を強いた結果、過労で倒れた私は記憶喪失になる。 そして帰ってきた旦那様は、全てを忘れていた私に困惑する。 ※35〜37話くらいで終わります。

処理中です...