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第131話
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「え、」
柊先輩のその小さな声が、やけに大きく響いた気がした。
まるで思考と声のタイミングがずれたような、抑えきれなかった反応。
私は、その無防備な表情を初めて見た気がした。
予想外だったのかもしれない。
想定の外に出るって、こんなふうに人を無防備にするんだ。そう思った。
「それでもいいですよね、沙紀先輩?」
遥希くんの声は、いつも通りの優しさを纏っていた。
でもその中に、明らかに“意図”があった。
遠回しな拒否、静かだけど確かな線引き。
そう受け取るには十分すぎる強さがあった。
遥希くんが、沙紀先輩のペースに巻き込まれずに立ってくれている。
そう思ったら、なぜか胸の奥が痛くて、じんわり熱くなった。
「私はいいけど…遥希くんはそれでいいの?」
沙紀先輩の問いは、あくまで優しくて。
確認のようでいて、本当は揺さぶっているような、そんな声。
優しさの仮面をかぶせて差し出す。
それが、この人のやり方だ。
「もちろんです。心配しなくても、ちゃんと見守ってますよ」
それはつまり、悪いことをしないように見張るということ。監視だ。
“ちゃんと見守る”その言葉に守られているような気がした。
「実は私も二人の邪魔するみたいで、気にしてたんだよね」
そう言って、笑った。
でも私は笑えなかった。
その笑顔の輪郭が、どれだけ作られたものかを知ってしまったから。
「へーそうなんですね」
遥希くんの受け答えが、さらりとしていて、
その“さらり”が妙に頼もしく感じた。
感情をにじませないその一言は、どこまでも中立に見せかけた盾で、
彼はちゃんと、誰の手にも引かれない場所に立ってくれていると思った。
「私といてくれるのは心桜ちゃんのため、なんだよね」
確認という名の圧。
言葉の選び方が、何かを試すようで私はまた、喉の奥が熱くなる。
こういう言葉に、何度も揺さぶられてきた気がする。
「そうですけど」
遥希くんの変わらない声色。
変わらずまっすぐで、誰の期待にも流されないそのまなざし。
「前から思ってたんだけど、二人ってすっごく仲良いよね」
その言葉は、“ただの冗談”の顔をして、私たちの間に投げ込まれる。
笑い話みたいに包んで、鋭さだけ残して投げてくる。
口の端だけが少し引きつって、咄嗟に視線を落とした。
今、顔を見られたくなかった。
強がる余裕も、演じる自信も、すこしだけ剥がれ落ちていた。
「…何が言いたいんですか」
遥希くんが、静かにそう言った。
声の奥には、確かな怒りがあった。
優しさなんてひとかけらも乗っていない。
けど、それでよかった。
そして、自分の中で何かが静かに沈んでいく音を聞いた。
それはたぶん、“これ以上は流されたくない”っていう、小さな覚悟の音だった。
柊先輩のその小さな声が、やけに大きく響いた気がした。
まるで思考と声のタイミングがずれたような、抑えきれなかった反応。
私は、その無防備な表情を初めて見た気がした。
予想外だったのかもしれない。
想定の外に出るって、こんなふうに人を無防備にするんだ。そう思った。
「それでもいいですよね、沙紀先輩?」
遥希くんの声は、いつも通りの優しさを纏っていた。
でもその中に、明らかに“意図”があった。
遠回しな拒否、静かだけど確かな線引き。
そう受け取るには十分すぎる強さがあった。
遥希くんが、沙紀先輩のペースに巻き込まれずに立ってくれている。
そう思ったら、なぜか胸の奥が痛くて、じんわり熱くなった。
「私はいいけど…遥希くんはそれでいいの?」
沙紀先輩の問いは、あくまで優しくて。
確認のようでいて、本当は揺さぶっているような、そんな声。
優しさの仮面をかぶせて差し出す。
それが、この人のやり方だ。
「もちろんです。心配しなくても、ちゃんと見守ってますよ」
それはつまり、悪いことをしないように見張るということ。監視だ。
“ちゃんと見守る”その言葉に守られているような気がした。
「実は私も二人の邪魔するみたいで、気にしてたんだよね」
そう言って、笑った。
でも私は笑えなかった。
その笑顔の輪郭が、どれだけ作られたものかを知ってしまったから。
「へーそうなんですね」
遥希くんの受け答えが、さらりとしていて、
その“さらり”が妙に頼もしく感じた。
感情をにじませないその一言は、どこまでも中立に見せかけた盾で、
彼はちゃんと、誰の手にも引かれない場所に立ってくれていると思った。
「私といてくれるのは心桜ちゃんのため、なんだよね」
確認という名の圧。
言葉の選び方が、何かを試すようで私はまた、喉の奥が熱くなる。
こういう言葉に、何度も揺さぶられてきた気がする。
「そうですけど」
遥希くんの変わらない声色。
変わらずまっすぐで、誰の期待にも流されないそのまなざし。
「前から思ってたんだけど、二人ってすっごく仲良いよね」
その言葉は、“ただの冗談”の顔をして、私たちの間に投げ込まれる。
笑い話みたいに包んで、鋭さだけ残して投げてくる。
口の端だけが少し引きつって、咄嗟に視線を落とした。
今、顔を見られたくなかった。
強がる余裕も、演じる自信も、すこしだけ剥がれ落ちていた。
「…何が言いたいんですか」
遥希くんが、静かにそう言った。
声の奥には、確かな怒りがあった。
優しさなんてひとかけらも乗っていない。
けど、それでよかった。
そして、自分の中で何かが静かに沈んでいく音を聞いた。
それはたぶん、“これ以上は流されたくない”っていう、小さな覚悟の音だった。
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