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第138話
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「じゃあ俺も行くね」
遥希くんがそう言った瞬間、空気がふっと動いた気がした。
その言葉は、今日という時間の終わりを告げるものだった。
私の胸の奥が、きゅっと縮こまる。
「あ、遥希くん」
呼び止めた瞬間、胸の奥が少しだけ跳ねた。
名前を呼ぶだけなのに、どうしてこんなに緊張するんだろう。
声が届いたかどうかを確認するまでの数秒が、妙に長く感じた。
足元に視線を落としながら、彼が振り返るのを待つ。
その間、心臓の音がやけに大きく響いていた。
「ん?」
その声は、いつも通りだった。
変わらない響きに、少しだけ安心する。
でも、目が合った瞬間、言いたかったことが喉の奥で絡まった。
遥希くんの目はまっすぐで、何も混じっていない。
その透明さが、私の言葉を少しだけ遠ざけた。
「さっきはありがとう」
言葉にしてしまえば簡単なのに、そこに込めた気持ちは、私の中ではずっと重かった。
その中には、助けてくれて、気づいてくれてありがとう。
そんな全部が詰まっていた。
でも、それを全部言うには、勇気が足りなかった。
「さっき?」
彼が首をかしげる。
その仕草が、少しだけ柔らかくて、私の緊張をほどいてくれる。
遥希くんのことだから、きっと分かってないんだろな。
「ほら、沙紀先輩の…」
言いかけて、言葉が途切れた。
あの場面を思い出すだけで、胸の奥がじわりと熱を持つ。
「皮肉に磨きがかかってたよね。さすが、言葉の使い方が手慣れてる」
遥希くんが軽く笑う。
その笑い方が、あの場面を“もう過ぎたこと”にしてくれる。
でも、私の中ではまだ、あの言葉の棘が残っていた。
彼の笑顔に救われながらも、自分だけがまだ立ち止まっているような気がして、
少しだけ置いていかれたような気持ちになった。
「なんて答えたらいいのか困ってたから、助かった。それに…」
言いながら、言葉が止まった。
“それに”のあとに続けたかったことが、喉の奥で引っかかってしまった。
彼の目が優しくて、だからこそ、余計に言えなかった。
「それに?」
彼が問い返す。
その声は、急かすでもなく、ただ、私の言葉を待ってくれているようだった。
「いや、何でもない。ごめんね呼び止めて。気をつけて帰ってね」
笑ってごまかした。
かっこよかったよ。
なんて言うべきじゃないと思った。
そんな言葉をかけるのは、あまりにも無責任だ。
「ありがとう。また明日」
遥希くんはそう言って、軽く手を振った。
その仕草が、あまりに自然で、私の胸の奥に、静かに残った。
「うん」
私は、静かに遥希くんの背中を見送った。
遥希くんがそう言った瞬間、空気がふっと動いた気がした。
その言葉は、今日という時間の終わりを告げるものだった。
私の胸の奥が、きゅっと縮こまる。
「あ、遥希くん」
呼び止めた瞬間、胸の奥が少しだけ跳ねた。
名前を呼ぶだけなのに、どうしてこんなに緊張するんだろう。
声が届いたかどうかを確認するまでの数秒が、妙に長く感じた。
足元に視線を落としながら、彼が振り返るのを待つ。
その間、心臓の音がやけに大きく響いていた。
「ん?」
その声は、いつも通りだった。
変わらない響きに、少しだけ安心する。
でも、目が合った瞬間、言いたかったことが喉の奥で絡まった。
遥希くんの目はまっすぐで、何も混じっていない。
その透明さが、私の言葉を少しだけ遠ざけた。
「さっきはありがとう」
言葉にしてしまえば簡単なのに、そこに込めた気持ちは、私の中ではずっと重かった。
その中には、助けてくれて、気づいてくれてありがとう。
そんな全部が詰まっていた。
でも、それを全部言うには、勇気が足りなかった。
「さっき?」
彼が首をかしげる。
その仕草が、少しだけ柔らかくて、私の緊張をほどいてくれる。
遥希くんのことだから、きっと分かってないんだろな。
「ほら、沙紀先輩の…」
言いかけて、言葉が途切れた。
あの場面を思い出すだけで、胸の奥がじわりと熱を持つ。
「皮肉に磨きがかかってたよね。さすが、言葉の使い方が手慣れてる」
遥希くんが軽く笑う。
その笑い方が、あの場面を“もう過ぎたこと”にしてくれる。
でも、私の中ではまだ、あの言葉の棘が残っていた。
彼の笑顔に救われながらも、自分だけがまだ立ち止まっているような気がして、
少しだけ置いていかれたような気持ちになった。
「なんて答えたらいいのか困ってたから、助かった。それに…」
言いながら、言葉が止まった。
“それに”のあとに続けたかったことが、喉の奥で引っかかってしまった。
彼の目が優しくて、だからこそ、余計に言えなかった。
「それに?」
彼が問い返す。
その声は、急かすでもなく、ただ、私の言葉を待ってくれているようだった。
「いや、何でもない。ごめんね呼び止めて。気をつけて帰ってね」
笑ってごまかした。
かっこよかったよ。
なんて言うべきじゃないと思った。
そんな言葉をかけるのは、あまりにも無責任だ。
「ありがとう。また明日」
遥希くんはそう言って、軽く手を振った。
その仕草が、あまりに自然で、私の胸の奥に、静かに残った。
「うん」
私は、静かに遥希くんの背中を見送った。
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