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第47話
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「え、っと…」
言葉が喉の奥で引っかかった。
呼ぶだけなのに、どうしてこんなにも難しいんだろう。
名前を口にするだけなのに、心臓がこんなに騒ぐなんて。
視線は自然と膝の上に落ちて、指先がぎゅっと握られていた。
彼の顔を見られない。
見たら、きっと顔が真っ赤になってしまう。
「だめ…?」
壱馬様の声は、少しだけ甘えているようだった。
そんな風に言われたら、断れるわけがない。
でも、心が追いつかない。
気持ちは前に進もうとしているのに、身体がまだ戸惑っている。
「壱馬様は壱馬様なので…」
言いながら、声が少し震えた。
それは、言い訳だった。
彼を“様”づけで呼ぶことで、自分の気持ちに蓋をしていた。
その呼び方が、私にとっての“安全地帯”だった。
でも、彼はその壁を、優しく、でも確かに崩そうとしている。
それが分かるからこそ、心が揺れていた。
「ずっと“壱馬様”って呼ばれてると、なんだか他人行儀でさ。距離があるって言うか」
距離…
それは、私が守ってきたものだった。
でも、壱馬様はその距離を、必要ないと言ってくれている。
その優しさが、嬉しくて、でも少しだけ怖かった。
だって、近づいた分だけ、離れるときが怖くなるから。
「か、壱馬……様」
思い切って口にしたけれど、結局“様”をつけてしまった。
名前を呼ぶことにも慣れないなんて、情けない。
「じゃあせめてさん付けにしてくれない?」
壱馬様の声は、少しだけ笑っていた。
でも、それは優しい笑いだった。
私の戸惑いを受け止めてくれている。
無理に変えさせようとするんじゃなくて、少しずつ、私のペースに合わせてくれている。
その余裕が、彼の優しさを物語っていて、胸がまた、きゅっと締めつけられた。
少しずつ近づいてきてくれる。
その歩幅が、私の心にちょうどよくて、だからこそ、応えたくなる。
「……壱馬さん」
その一言は、まるで心の扉をそっと開けるようだった。
声は小さく、震えていたけれど、確かに彼の名前を呼んだ。
そっと顔を上げた。
壱馬さんの表情が見たくて。
彼がどう受け止めてくれるのか、怖くて、でも知りたくて。
壱馬さんは、すごく嬉しそうに微笑んだ。
ただ名前を呼んだだけなのに。
それだけで、彼の表情が柔らかくほどけていくのが分かった。
「ありがとう。帰ろっか」
壱馬さんの声は、穏やかで優しかった。
そして、ハンドルに手を添え、ゆっくりと足をペダルに乗せる。
「はい、壱馬さん」
その言葉が、自然に口からこぼれた。
さっきまであんなに緊張していたのに、
今は、まるでずっとそう呼んできたかのように、
すっと馴染んだ。
車が静かに走り出す。
夜の街をゆっくりと進んでいく。
窓の外に流れる景色が、少しだけ違って見えた。
まるで、世界が優しくなったみたいに。
───この瞬間を、ずっと覚えていたい。
そう思った。
言葉が喉の奥で引っかかった。
呼ぶだけなのに、どうしてこんなにも難しいんだろう。
名前を口にするだけなのに、心臓がこんなに騒ぐなんて。
視線は自然と膝の上に落ちて、指先がぎゅっと握られていた。
彼の顔を見られない。
見たら、きっと顔が真っ赤になってしまう。
「だめ…?」
壱馬様の声は、少しだけ甘えているようだった。
そんな風に言われたら、断れるわけがない。
でも、心が追いつかない。
気持ちは前に進もうとしているのに、身体がまだ戸惑っている。
「壱馬様は壱馬様なので…」
言いながら、声が少し震えた。
それは、言い訳だった。
彼を“様”づけで呼ぶことで、自分の気持ちに蓋をしていた。
その呼び方が、私にとっての“安全地帯”だった。
でも、彼はその壁を、優しく、でも確かに崩そうとしている。
それが分かるからこそ、心が揺れていた。
「ずっと“壱馬様”って呼ばれてると、なんだか他人行儀でさ。距離があるって言うか」
距離…
それは、私が守ってきたものだった。
でも、壱馬様はその距離を、必要ないと言ってくれている。
その優しさが、嬉しくて、でも少しだけ怖かった。
だって、近づいた分だけ、離れるときが怖くなるから。
「か、壱馬……様」
思い切って口にしたけれど、結局“様”をつけてしまった。
名前を呼ぶことにも慣れないなんて、情けない。
「じゃあせめてさん付けにしてくれない?」
壱馬様の声は、少しだけ笑っていた。
でも、それは優しい笑いだった。
私の戸惑いを受け止めてくれている。
無理に変えさせようとするんじゃなくて、少しずつ、私のペースに合わせてくれている。
その余裕が、彼の優しさを物語っていて、胸がまた、きゅっと締めつけられた。
少しずつ近づいてきてくれる。
その歩幅が、私の心にちょうどよくて、だからこそ、応えたくなる。
「……壱馬さん」
その一言は、まるで心の扉をそっと開けるようだった。
声は小さく、震えていたけれど、確かに彼の名前を呼んだ。
そっと顔を上げた。
壱馬さんの表情が見たくて。
彼がどう受け止めてくれるのか、怖くて、でも知りたくて。
壱馬さんは、すごく嬉しそうに微笑んだ。
ただ名前を呼んだだけなのに。
それだけで、彼の表情が柔らかくほどけていくのが分かった。
「ありがとう。帰ろっか」
壱馬さんの声は、穏やかで優しかった。
そして、ハンドルに手を添え、ゆっくりと足をペダルに乗せる。
「はい、壱馬さん」
その言葉が、自然に口からこぼれた。
さっきまであんなに緊張していたのに、
今は、まるでずっとそう呼んできたかのように、
すっと馴染んだ。
車が静かに走り出す。
夜の街をゆっくりと進んでいく。
窓の外に流れる景色が、少しだけ違って見えた。
まるで、世界が優しくなったみたいに。
───この瞬間を、ずっと覚えていたい。
そう思った。
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