38 / 66
第38話
しおりを挟む
雑貨屋をひと通り見て回ったものの、特にこれだと思うものはなく、
店内を歩きながら瑞稀の様子をちらりと確認する。
瑞稀は相変わらずポケットに手を突っ込んだまま、特に何かを探している様子もなく店の入り口の方を見ていた。
そろそろ次へ行こうかなんて思いながら、自然と出口へ向かう。
「次どうする?」
店を出てすぐ、ふと口にした言葉は、自分に向けたものでもあり、隣にいる瑞稀への問いかけでもあった。
まだ一時間経ってないし…
「洋服、見てもいい?」
瑞稀は肩をすくめ、「勝手にしろ」といつもの調子で返してくる。
結局こうやって付き合ってくれるのが分かっているから、どこか安心する。
ショッピングセンターの広い通路を歩きながら、瑞稀の歩調に合わせて何気なく店の看板を眺める。
華やかなディスプレイや鮮やかな照明が並ぶ空間の中で、目的の服屋を見つけると自然と足が向いていく。
こうして一緒にいると、何か特別なことをするわけではなくても、なんとなく安心できるのが不思議だった。
服屋の店内は、雑貨屋よりも広く、カラフルな洋服が壁一面に並び、さらに華やかな空気が漂っていた。
周囲の買い物客の楽しそうな声も聞こえてきて、その雰囲気に触れるだけで明るい気持ちになる。
店内を歩くだけで目移りしてしまうほど、多種多様な服が揃っている。
ワクワクした気持ちのまま、さっそくいくつかの洋服を手に取ると、試着室へと向かった。
その間、瑞稀は店の隅で腕を組みながら待っている。
「瑞稀、これどう?」
試着室のカーテンを開けると、ひらひらとしたワンピースを身に纏いながらくるりと一回転する。
裾がふわりと広がり、その軽やかな動きに自分でも気分が上がる。
瑞稀は一瞬だけこちらを見たが、すぐに目をそらした。
「似合ってるんじゃねぇか?」
返ってきたのは、いつものそっけない言葉。
どこか適当に言われたような気がして、口を尖らせる。
「もう、ちゃんと見てよ!適当に言うのやめて」
少し頬を膨らませながら言うと、瑞稀は小さく息をつきながら、仕方なさそうにもう一度じっくり視線を向ける。
その目線がワンピースの柔らかな生地をなぞるように動くのを感じると、なんとなくくすぐったい気持ちが込み上げる。
「服なんて自分が気に入ったもの買えばいいだろ」
ぼそっとした言葉が返ってくる。
もうっ。
乙女心が分かってないんだから。
「瑞稀が似合うって言ってくれたら、買うんだけどなぁ」
少しむっとしながらじっと見つめる。
適当に流されるのは嫌で、ちゃんとした返事が欲しくなってしまう。
瑞稀はその視線に負けたのか、小さく息をつくと、改めてじっくり服を見てから短く答えた。
「悪くねぇ」
その一言に、思わず満足げな笑みを浮かべる。
何気ない言葉だけど、ちゃんと見てくれたという事実が嬉しい。
「そうでしょ?じゃあこれ買おうっと」
「勝手にしろ」
腕を組み直し、そう呟くだけだった。
それでも、耳がほんのり赤く見えるのは、気のせいなのだろうか。
店内を歩きながら瑞稀の様子をちらりと確認する。
瑞稀は相変わらずポケットに手を突っ込んだまま、特に何かを探している様子もなく店の入り口の方を見ていた。
そろそろ次へ行こうかなんて思いながら、自然と出口へ向かう。
「次どうする?」
店を出てすぐ、ふと口にした言葉は、自分に向けたものでもあり、隣にいる瑞稀への問いかけでもあった。
まだ一時間経ってないし…
「洋服、見てもいい?」
瑞稀は肩をすくめ、「勝手にしろ」といつもの調子で返してくる。
結局こうやって付き合ってくれるのが分かっているから、どこか安心する。
ショッピングセンターの広い通路を歩きながら、瑞稀の歩調に合わせて何気なく店の看板を眺める。
華やかなディスプレイや鮮やかな照明が並ぶ空間の中で、目的の服屋を見つけると自然と足が向いていく。
こうして一緒にいると、何か特別なことをするわけではなくても、なんとなく安心できるのが不思議だった。
服屋の店内は、雑貨屋よりも広く、カラフルな洋服が壁一面に並び、さらに華やかな空気が漂っていた。
周囲の買い物客の楽しそうな声も聞こえてきて、その雰囲気に触れるだけで明るい気持ちになる。
店内を歩くだけで目移りしてしまうほど、多種多様な服が揃っている。
ワクワクした気持ちのまま、さっそくいくつかの洋服を手に取ると、試着室へと向かった。
その間、瑞稀は店の隅で腕を組みながら待っている。
「瑞稀、これどう?」
試着室のカーテンを開けると、ひらひらとしたワンピースを身に纏いながらくるりと一回転する。
裾がふわりと広がり、その軽やかな動きに自分でも気分が上がる。
瑞稀は一瞬だけこちらを見たが、すぐに目をそらした。
「似合ってるんじゃねぇか?」
返ってきたのは、いつものそっけない言葉。
どこか適当に言われたような気がして、口を尖らせる。
「もう、ちゃんと見てよ!適当に言うのやめて」
少し頬を膨らませながら言うと、瑞稀は小さく息をつきながら、仕方なさそうにもう一度じっくり視線を向ける。
その目線がワンピースの柔らかな生地をなぞるように動くのを感じると、なんとなくくすぐったい気持ちが込み上げる。
「服なんて自分が気に入ったもの買えばいいだろ」
ぼそっとした言葉が返ってくる。
もうっ。
乙女心が分かってないんだから。
「瑞稀が似合うって言ってくれたら、買うんだけどなぁ」
少しむっとしながらじっと見つめる。
適当に流されるのは嫌で、ちゃんとした返事が欲しくなってしまう。
瑞稀はその視線に負けたのか、小さく息をつくと、改めてじっくり服を見てから短く答えた。
「悪くねぇ」
その一言に、思わず満足げな笑みを浮かべる。
何気ない言葉だけど、ちゃんと見てくれたという事実が嬉しい。
「そうでしょ?じゃあこれ買おうっと」
「勝手にしろ」
腕を組み直し、そう呟くだけだった。
それでも、耳がほんのり赤く見えるのは、気のせいなのだろうか。
1
あなたにおすすめの小説
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
社長は身代わり婚約者を溺愛する
日下奈緒
恋愛
ある日礼奈は、社長令嬢で友人の芹香から「お見合いを断って欲しい」と頼まれる。
引き受ける礼奈だが、お見合いの相手は、優しくて素敵な人。
そして礼奈は、芹香だと偽りお見合いを受けるのだが……
俺様御曹司に飼われました
馬村 はくあ
恋愛
新入社員の心海が、与えられた社宅に行くと先住民が!?
「俺に飼われてみる?」
自分の家だと言い張る先住民に出された条件は、カノジョになること。
しぶしぶ受け入れてみるけど、俺様だけど優しいそんな彼にいつしか惹かれていって……
溺愛のフリから2年後は。
橘しづき
恋愛
岡部愛理は、ぱっと見クールビューティーな女性だが、中身はビールと漫画、ゲームが大好き。恋愛は昔に何度か失敗してから、もうするつもりはない。
そんな愛理には幼馴染がいる。羽柴湊斗は小学校に上がる前から仲がよく、いまだに二人で飲んだりする仲だ。実は2年前から、湊斗と愛理は付き合っていることになっている。親からの圧力などに耐えられず、酔った勢いでついた嘘だった。
でも2年も経てば、今度は結婚を促される。さて、そろそろ偽装恋人も終わりにしなければ、と愛理は思っているのだが……?
好きの手前と、さよならの向こう
茶ノ畑おーど
恋愛
数年前の失恋の痛みを抱えたまま、淡々と日々を過ごしていた社会人・中町ヒロト。
そんな彼の前に、不器用ながら真っすぐな後輩・明坂キリカが配属される。
小悪魔的な新人女子や、忘れられない元恋人も現れ、
ヒロトの平穏な日常は静かに崩れ、やがて過去と心の傷が再び揺らぎ始める――。
仕事と恋、すれ違いと再生。
交錯する想いの中で、彼は“本当に守りたいもの”を選び取れるのか。
――――――
※【20:30】の毎日更新になります。
ストーリーや展開等、色々と試行錯誤しながら執筆していますが、楽しんでいただけると嬉しいです。
不器用な大人たちに行く末を、温かく見守ってあげてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる