高校生の日常

結衣の日常

「川島くん…？」  

　目を少し見開く。

　何か違和感がある。いつもと違う。  

　何だろうと考えた瞬間、気づく。
　眼鏡が、ない。  

　川島くんといえば、眼鏡をかけている姿が当たり前だった。

　今まで、それが彼の印象の一部になっていたのに、今日は違う。

　眼鏡がなくなるだけで、こんなにも雰囲気が変わるものなのか。

　自然とその顔をじっと見つめてしまう。  

「ほらっ、感想」  

　横から杏奈が小声で促す。

　その一言で、ようやく理解した。

　眼鏡を外してコンタクトにしたことが、今日の大きな出来事だったらしい。  

　状況を理解しようとする間もなく、川島くんの顔を見ると、少しだけ不安そうな表情をしている。

　そんな顔をされたら、きちんと言わないといけない。  

「すっごくいい！すっごくかっこいいよ！」  

　率直な感想が口をついて出た。

　驚きがまだ残っているせいか、少し声が大きくなる。

　けれど、これは本当にそう思ったからこそ出た言葉。

　眼鏡がなくなったことで、よりはっきりと顔立ちが際立って見える。

「あ、ありがとう…」  

　楓樹は少し戸惑ったように笑う。

　照れくさそうにしているのがわかる。

　褒められることに慣れていないんだろうな。

「言ったでしょ、心配しなくていいって」  

　杏奈が満足げな顔をして、川島くんを軽く叩く。

　川島くんの表情をじっと見ながら、自信を持たせようとしているのが分かる。  

　なるほど、どうやら昨日の話で何かしらの後押しをしていたらしい。

　ここまでテンションが高かったのも、そのせいか。  

　たぶん、川島くんはこれを決意するまでにいろいろな葛藤があったんだろう。  

「もうっ、先に行っちゃうなんて、」  

　川島くんの言葉に、軽く眉をひそめる。

　会話の流れを掴めないまま、ただ様子を見つめる。  

「ごめんごめん。でも、二人きりの方が良かったでしょ？」  

　杏奈は悪戯っぽく笑う。

　二人きり…誰と？

　川島くんの表情を見ると、わずかに赤みが差している。

　その瞬間、何となく察する。

　川島くんを好きな人と二人きりにするために、杏奈は逃げた。

　もしかして、好きな人ができたからイメチェンしたんだろうか。

「うん…そうだけど…」  

　小さく答える。

　言葉の端々にまだ照れが残っていて、まともに目を合わせて話せていない様子。

　やっぱり、これは特別な話なんだろう。  

「それで、あの人はなんて？」  

　杏奈がさらに食い気味に聞く。
　確かに。ちゃんと褒めて貰えたんだろうか。

　好きな人に褒められるのが一番嬉しいんだから。

「褒めてくれたよ。でも…」  

　でも？

　その言葉に少し違和感を覚える。

　普通なら、そこで終わるはずなのに、何かが引っかかっている様子だ。

　何か言われたんだろうか。

　川島くんがちらっとこちらを見る。  

　その視線の意味を考える。

　これは私には聞かれたくない話なのかな？

「二人で話したいんじゃないの」  

　そっと杏奈に肘を当てて、小声で言う。

　これは、今ここで話し合うことじゃない。
　きっと、二人だけの方がいい内容。  

「あ、じゃあちょっと向こうで作戦会議しようか」  

　杏奈はすぐに流れを変える。
　さすが、こういう時の判断は早い。  

「うん、」  

　少し気恥ずかしそうな顔。

　気になるけど、ここは空気を読んでおくべきか。  



　杏奈が川島くんの力になってるみたいで良かった。