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10話 将来
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10話 将来
「ただいま」
「おかえりなさい」
23時30分、明利が家に帰ってきた。私はダイニングで紅茶を準備して、一口飲む。ほっと一息。温かい湯が喉を通りお腹を満たしていく。明利がドアを開け、靴を脱いだり荷物を置いたりする音が響いた。やがて、リビングのドアが開かれ、カフェの制服を着た明利が現れる。右手に通学バッグ、左手にバイト用のバッグ。
「おつかれさま」
「うん。おつかれ」
明利は、どれだけ疲れていても、それが態度に出ることはなかった。さすがに顔は疲れているけど、弱音を吐く姿を見たことがない。怒ったりものに当たったりせず、ひたすらに毎日生きている感じ。それは、まぁ、仕方のないことともいえる。
とにかく、生きていくにはお金がかかる。私が私立に進学したせいもあるだろう。趣味もそう。握っているペンだって、布だって、装飾だってお金を払わないと使えない。手作りだから、既製品よりは少ないはずだけど、ゼロにはできないし。家にかかる請求書以外に、洋服、靴、食べ物、掃除道具などなど、キリがない。お金のことは明利が管理しているけれど、実際どんな状況かわからないし。中学生になったとはいえ、私を雇ってくれるところは見つからない。
「コーヒー飲もうかな」
明利は洗面所で手洗いとうがいをしたあと、キッチンへ行き戸棚を開けた。インスタント食品の隣、コーヒー豆が収納されている。プラスチックのボトルやマグカップを取り出し、カウンターに置いた。ボトルを開け、コーヒー豆をマグカップに投入。お湯は既に沸かしたから、注いでマドラーでかき混ぜれば出来上がり。ダイニングチェアに座り、両手を合わせて伸び。そのころ、私の飲んでいた紅茶は半分くらい残っていた。
「宿題は終わった?」
「うん」
「今日の学校はどうだった?」
砂糖や油を入れない、ブラックコーヒー。明利が好きな飲み物だ。一口飲み、ひとつ息を吐く。
「いつも通り。ランチはコロッケを食べたの」
「いいね。あれ人気メニューだからすぐ売り切れたって聞いたよ」
「そうなんだ。美味しかったよ。明利は?」
「唐揚げを食べた。揚げたて最高」
日付が変わる前の時間、飲み物片手に明利と話せる時間。学校のこと、アルバイトのこと、私の絵のこと。決して中身があるわけじゃないし、大事な話というわけでもない。こうして――同じ時間を共有することに意味があるのだ。なんだっていい。自分を形成する部分を、たった一部分を人に話すだけで、心が軽くなる。
「アルバイトは今季でやめて、来年はどこかの会社で勤めていると思う。そうすれば、今より、少し余裕ができるんじゃないかな」
「そうだね……」
「ただいま」
「おかえりなさい」
23時30分、明利が家に帰ってきた。私はダイニングで紅茶を準備して、一口飲む。ほっと一息。温かい湯が喉を通りお腹を満たしていく。明利がドアを開け、靴を脱いだり荷物を置いたりする音が響いた。やがて、リビングのドアが開かれ、カフェの制服を着た明利が現れる。右手に通学バッグ、左手にバイト用のバッグ。
「おつかれさま」
「うん。おつかれ」
明利は、どれだけ疲れていても、それが態度に出ることはなかった。さすがに顔は疲れているけど、弱音を吐く姿を見たことがない。怒ったりものに当たったりせず、ひたすらに毎日生きている感じ。それは、まぁ、仕方のないことともいえる。
とにかく、生きていくにはお金がかかる。私が私立に進学したせいもあるだろう。趣味もそう。握っているペンだって、布だって、装飾だってお金を払わないと使えない。手作りだから、既製品よりは少ないはずだけど、ゼロにはできないし。家にかかる請求書以外に、洋服、靴、食べ物、掃除道具などなど、キリがない。お金のことは明利が管理しているけれど、実際どんな状況かわからないし。中学生になったとはいえ、私を雇ってくれるところは見つからない。
「コーヒー飲もうかな」
明利は洗面所で手洗いとうがいをしたあと、キッチンへ行き戸棚を開けた。インスタント食品の隣、コーヒー豆が収納されている。プラスチックのボトルやマグカップを取り出し、カウンターに置いた。ボトルを開け、コーヒー豆をマグカップに投入。お湯は既に沸かしたから、注いでマドラーでかき混ぜれば出来上がり。ダイニングチェアに座り、両手を合わせて伸び。そのころ、私の飲んでいた紅茶は半分くらい残っていた。
「宿題は終わった?」
「うん」
「今日の学校はどうだった?」
砂糖や油を入れない、ブラックコーヒー。明利が好きな飲み物だ。一口飲み、ひとつ息を吐く。
「いつも通り。ランチはコロッケを食べたの」
「いいね。あれ人気メニューだからすぐ売り切れたって聞いたよ」
「そうなんだ。美味しかったよ。明利は?」
「唐揚げを食べた。揚げたて最高」
日付が変わる前の時間、飲み物片手に明利と話せる時間。学校のこと、アルバイトのこと、私の絵のこと。決して中身があるわけじゃないし、大事な話というわけでもない。こうして――同じ時間を共有することに意味があるのだ。なんだっていい。自分を形成する部分を、たった一部分を人に話すだけで、心が軽くなる。
「アルバイトは今季でやめて、来年はどこかの会社で勤めていると思う。そうすれば、今より、少し余裕ができるんじゃないかな」
「そうだね……」
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