幽冥の涙を探して

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9話 デッサン

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9話 デッサン
 明利と住んでから3年が経とうとしている。時間の流れというものは残酷で、永遠に満ち足りることはない。山積みの課題、放置した放っておいた感情、息苦しくて蓋をした記憶。ぐちゃぐちゃにしてしまいたい。跡形もなく粉々にしてやる。
 私は絵を描くことが好きだ。物心つく前から、私の右手にはペン、目の前には絵があった。何もない白紙の上に、ペンを走らせて色がつく。完成したものを見ては、額縁に入れて飾り、壁を埋める。描くことが好きで、書くことも好き。落書きもしてた。もちろん怒られたけど。紙を用意してくれて、そこに描くよう強く言われた。空想上の現実で異常な異常。芸術とはよくわからない。当然、自分の中の世界を、だれかに完璧に理解してもらう必要はないのだ。世界は世界で、他人は他人で、私は私でしかない。そうして出来上がった私の作品は……。
「やった。できた」
 私は絵を描くことが好きだ。2週間前の文化祭で、作品を販売するまでに上達した。色鮮やかなもの、モノクロで細い線のもの。肯定的な意見、否定的な意見。完売御礼。気分上々。売り上げにも反映されてとても嬉しかった。
 私は絵を描くことが好きだ。風景画よりデッサンが得意。あと、洋服を作ることも楽しい。紙に設計図を描いて、布や装飾を用意して、ミシンで縫う。
 今回のテーマは星空の願い。闇夜の月に照らされた湖をモチーフにした。濃い青、黒、アクセントで黄色を使った。レースつきの膝上の短いワンピースがメイン。ノースリーブ、ショートドレスを想定。ハイヒールには星形のボンボンをつけよう。イヤリングとネックレスは銀色で、ハイヒールと同じ星を施す。
「いい感じ! あとは作るだけ」
 背もたれに寄りかかって両手を伸ばす。そして、完成したデッサンを細かく眺めた。どんな素材が必要かな。どんなドレスになるんだろう。製作や試着が楽しみだ。
 ふぁとあくびをひとつ、肩に入っていた力が抜ける。スタンドに置いていたスマホが、振動して音が鳴った。メッセージアプリを開くと、明利からの連絡だと気づく。
『片付け始まったから帰るね』
 時計を見るともう23時。もう何時間も椅子に座ってデッサンに夢中だった。時間の経過は思ったより早い。メッセージを送り、アプリを閉じて電源を切った。
 明利が働いている日は、基本的に夕食は作らない。彼はアルバイト先で食べているみたいだし、私が彼の帰宅時間に合わせて食べたら、ぶくぶく太ってしまうから。私は帰宅したらサンドウィッチやおにぎりをひとつだけつまみ、食欲を忘れるように課題を片付けてからデッサンに取り掛かる。こんな生活を続けて3年目、慣れもあり時間の進みが本当に早いと感じていた。
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