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8話 謎の声
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8話 謎の声
確かめたいけど、こんなところで声を出したら怪しまれる。それに、だれの声なのかも分からなくて、聞いたことないし。中高生が入り乱れるカフェテリアで聞き分けられる? 自信はない。
「夢織、気になってるでしょう?」
「……」
「家族がどこにいるのか、生きているのか」
「……!」
大声を上げてしまうそうなほどの衝撃。食事中だということも忘れて、お茶を吹き出すところだった。慌ててやめ、目で左右を見て声の主を探した。だけど、そんな人いるはずもなくて。
「教えてあげる。もちろん、無償じゃないよ? それでもいいなら、ね――」
その声が私自身に語りかけているとしたら? だれかの口、喉、腹からじゃなければ? 空想の世界から、雲上から、私を見つけ出して掴もうとしているのなら? ――十分考えられる。
「うふふ。あなたがどんな選択をするのか、楽しみにしているわ」
「……!」
「さようなら」
「ふぅー。なんとか終わった! 宿題はちゃんとやらなきゃ……!」
「困ったらいつでも連絡してね」
「本当にありがとう! ゆめがいないと大変なことになってたよ! 補習とか、追加課題とか、そのほかもろもろ」
ようやく授業が終わった。あの謎の声はすっかりおさまっていて、集中できたけど。疑問が積もるばかりで、弾け飛ぶのはいつになるのやら。当然ながら、私の疑問に答えてくれる人などいなかった。
明利はそのままアルバイトに行くから、あずと一緒に帰る。あずの家は学校から徒歩5分のところで、すぐさよならだけど少しでもいられるなら嬉しかった。
「ふぁー」
「眠いね。帰ったらたくさん寝よう!」
「うん。そうする~」
学食でのランチタイムを終え、現代社会の課題を4人で終わらせた。あずは頭を捻って、一生懸命問題を解いていた。波切くんと秋風くん、ふたりも一緒に。ふたりが教えることに前向きで驚いた。否定的な感じもしなかったし。昼休みはそれで終わってしまったけど、復習になって良い機会だった。
「あー、トンボがいるよ」
あずの声につられて顔を上げる。背景はオレンジのグラデーション、透けた雲。髪や制服を揺らす穏やかな風。近くの家から漂う夕食の匂い。肝心のトンボは、どこかに飛んでいってしまったらしい。
「ほんとだ。日が沈むの早くなってきたね」
「ねー。寒すぎるのはイヤだなぁ」
あずは両手を擦って息を吹きかけた。これからの寒さが心配だ。街路樹や植物は枯れ、道は雪にまみれ、身体を冷やす。冷凍みかんのように固まっていくことだろう。
「暗くなる前に帰ろ」
あずの家だ。モダンな10階建てのマンション。ゲート付近で私たちは手を振り、白い月に背を向けた。
「じゃあね、またあした」
「またね」
確かめたいけど、こんなところで声を出したら怪しまれる。それに、だれの声なのかも分からなくて、聞いたことないし。中高生が入り乱れるカフェテリアで聞き分けられる? 自信はない。
「夢織、気になってるでしょう?」
「……」
「家族がどこにいるのか、生きているのか」
「……!」
大声を上げてしまうそうなほどの衝撃。食事中だということも忘れて、お茶を吹き出すところだった。慌ててやめ、目で左右を見て声の主を探した。だけど、そんな人いるはずもなくて。
「教えてあげる。もちろん、無償じゃないよ? それでもいいなら、ね――」
その声が私自身に語りかけているとしたら? だれかの口、喉、腹からじゃなければ? 空想の世界から、雲上から、私を見つけ出して掴もうとしているのなら? ――十分考えられる。
「うふふ。あなたがどんな選択をするのか、楽しみにしているわ」
「……!」
「さようなら」
「ふぅー。なんとか終わった! 宿題はちゃんとやらなきゃ……!」
「困ったらいつでも連絡してね」
「本当にありがとう! ゆめがいないと大変なことになってたよ! 補習とか、追加課題とか、そのほかもろもろ」
ようやく授業が終わった。あの謎の声はすっかりおさまっていて、集中できたけど。疑問が積もるばかりで、弾け飛ぶのはいつになるのやら。当然ながら、私の疑問に答えてくれる人などいなかった。
明利はそのままアルバイトに行くから、あずと一緒に帰る。あずの家は学校から徒歩5分のところで、すぐさよならだけど少しでもいられるなら嬉しかった。
「ふぁー」
「眠いね。帰ったらたくさん寝よう!」
「うん。そうする~」
学食でのランチタイムを終え、現代社会の課題を4人で終わらせた。あずは頭を捻って、一生懸命問題を解いていた。波切くんと秋風くん、ふたりも一緒に。ふたりが教えることに前向きで驚いた。否定的な感じもしなかったし。昼休みはそれで終わってしまったけど、復習になって良い機会だった。
「あー、トンボがいるよ」
あずの声につられて顔を上げる。背景はオレンジのグラデーション、透けた雲。髪や制服を揺らす穏やかな風。近くの家から漂う夕食の匂い。肝心のトンボは、どこかに飛んでいってしまったらしい。
「ほんとだ。日が沈むの早くなってきたね」
「ねー。寒すぎるのはイヤだなぁ」
あずは両手を擦って息を吹きかけた。これからの寒さが心配だ。街路樹や植物は枯れ、道は雪にまみれ、身体を冷やす。冷凍みかんのように固まっていくことだろう。
「暗くなる前に帰ろ」
あずの家だ。モダンな10階建てのマンション。ゲート付近で私たちは手を振り、白い月に背を向けた。
「じゃあね、またあした」
「またね」
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