14 / 51
14話 感傷
しおりを挟む
14話 感傷
~氷のプリンセス~
ようやく彼が眠った。明かりを消してから2時間、穏やかな寝息を立てている。何度か寝返りを打って、横向きになって落ち着いた。時折、思い詰めたような、息苦しい声が聞こえたけれど、今は大丈夫みたい。……眠りにつく前、医者に言われた通りの(薬の)量を守ったからだろう。床で寝落ちすることもあるから、ベッドにいるだけ良いことだ。床だと疲労は取れずたまっていくばかり。腰もやられるし、途中で起きてしまうかも。
私は、カーテンのない窓から差し込む光に誘われて、目を覚ます。瞬きをして、口を開けたり閉じたりする。指を折り曲げて手を伸ばして、その感覚を取り戻す。息を吐いて古い空気を外に出す。前に落ちてきた髪を軽く手で梳かして耳にかける。ドレスについた埃をさっと払って、背筋を伸ばす。そろそろ動くときだ。でも、怖いものは怖い。
「……」
足に体重をかけないよう、慎重に。かかとから外して、かといって爪先に力を入れず。もう11回目になる冒険だけど、薄暗く、硬い床は何度見ても足がすくむ。だけど進まないと。
覚悟を決めて、目を瞑って飛び降りた。眠っているときだと大怪我を負うけれど、今の状態なら問題ない。頭から落ちた割に、鼻が少し痛い程度で済む。台座から離れて飛び降りて、なぜ元の身体に戻るのか、理由はよくわからないけど。自由に息ができて、昼と夜を堪能できるから、ほんの少しだけ楽しい。
今は冬と春の季節の変わり目で、朝夜は基本的に冷えている。ドレスを着ているとはいえ、ノースリーブ同然で肌寒い。ソファーに掛けられていた上着を羽織り、ウッディの香りに包まれる。そしたら、床を這うようにして、別の部屋に移動する。普通に歩くより時間がかかるけど仕方がない。ドアノブに手を伸ばしてゆっくり開ける。ちょっとした会議室、小声で話していれば聞こえない。窓辺に近づいて、アルコーヴに腰掛けた。枕を抱き、喉に手を当てて声を出す準備を始める。
「ふぅ……」
ずっと見ていたはずの星空の意味が変わった。こんなに穏やかな気持ちになれるなんて思っていなかったから。嫌だったこと、歯を食いしばったこと、過去を洗い流すかのよう。ここには、嫌なものがない。特別好きすぎるものもない。きらめく星、照らす月。黒には白が、光が映える。季節の移り変わりを教えてくれる。
(泣いてしまうほど、感傷に浸っているのね)
ありふれた日常が愛おしい。波がなくて、揺らがなくて。
~氷のプリンセス~
ようやく彼が眠った。明かりを消してから2時間、穏やかな寝息を立てている。何度か寝返りを打って、横向きになって落ち着いた。時折、思い詰めたような、息苦しい声が聞こえたけれど、今は大丈夫みたい。……眠りにつく前、医者に言われた通りの(薬の)量を守ったからだろう。床で寝落ちすることもあるから、ベッドにいるだけ良いことだ。床だと疲労は取れずたまっていくばかり。腰もやられるし、途中で起きてしまうかも。
私は、カーテンのない窓から差し込む光に誘われて、目を覚ます。瞬きをして、口を開けたり閉じたりする。指を折り曲げて手を伸ばして、その感覚を取り戻す。息を吐いて古い空気を外に出す。前に落ちてきた髪を軽く手で梳かして耳にかける。ドレスについた埃をさっと払って、背筋を伸ばす。そろそろ動くときだ。でも、怖いものは怖い。
「……」
足に体重をかけないよう、慎重に。かかとから外して、かといって爪先に力を入れず。もう11回目になる冒険だけど、薄暗く、硬い床は何度見ても足がすくむ。だけど進まないと。
覚悟を決めて、目を瞑って飛び降りた。眠っているときだと大怪我を負うけれど、今の状態なら問題ない。頭から落ちた割に、鼻が少し痛い程度で済む。台座から離れて飛び降りて、なぜ元の身体に戻るのか、理由はよくわからないけど。自由に息ができて、昼と夜を堪能できるから、ほんの少しだけ楽しい。
今は冬と春の季節の変わり目で、朝夜は基本的に冷えている。ドレスを着ているとはいえ、ノースリーブ同然で肌寒い。ソファーに掛けられていた上着を羽織り、ウッディの香りに包まれる。そしたら、床を這うようにして、別の部屋に移動する。普通に歩くより時間がかかるけど仕方がない。ドアノブに手を伸ばしてゆっくり開ける。ちょっとした会議室、小声で話していれば聞こえない。窓辺に近づいて、アルコーヴに腰掛けた。枕を抱き、喉に手を当てて声を出す準備を始める。
「ふぅ……」
ずっと見ていたはずの星空の意味が変わった。こんなに穏やかな気持ちになれるなんて思っていなかったから。嫌だったこと、歯を食いしばったこと、過去を洗い流すかのよう。ここには、嫌なものがない。特別好きすぎるものもない。きらめく星、照らす月。黒には白が、光が映える。季節の移り変わりを教えてくれる。
(泣いてしまうほど、感傷に浸っているのね)
ありふれた日常が愛おしい。波がなくて、揺らがなくて。
0
あなたにおすすめの小説
どうかこの偽りがいつまでも続きますように…
矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。
それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。
もう誰も私を信じてはくれない。
昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。
まるで人が変わったかのように…。
*設定はゆるいです。
【完結】時計台の約束
とっくり
恋愛
あの日、彼は約束の場所に現れなかった。
それは裏切りではなく、永遠の別れの始まりだった――。
孤児院で出会い、時を経て再び交わった二人の絆は、すれ違いと痛みの中で静かに崩れていく。
偽りの事故が奪ったのは、未来への希望さえも。
それでも、彼を想い続ける少女の胸には、小さな命と共に新しい未来が灯る。
中世異世界を舞台に紡がれる、愛と喪失の切ない物語。
※短編から長編に変更いたしました。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】
積み上がった伏線の回収目前!!
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
恋心を利用されている夫をそろそろ返してもらいます
しゃーりん
恋愛
ソランジュは婚約者のオーリオと結婚した。
オーリオには前から好きな人がいることをソランジュは知っていた。
だがその相手は王太子殿下の婚約者で今では王太子妃。
どんなに思っても結ばれることはない。
その恋心を王太子殿下に利用され、王太子妃にも利用されていることにオーリオは気づいていない。
妻であるソランジュとは最低限の会話だけ。無下にされることはないが好意的でもない。
そんな、いかにも政略結婚をした夫でも必要になったので返してもらうというお話です。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる