血に塗れた氷の騎士

fireworks

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13話 触れて初めて

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13話 触れて初めて
「やっと……会えた」
「!?」
 途切れ途切れの言葉を理解するのに動きが止まる。そのスキに女性はネクタイを解き、上着のボタンをひとつずつ外した。手慣れている。一気に不快感が押し寄せて、女性の右腕を掴んでしまった。
「だめです」
「どうして?」
 つぶらなブルーの瞳に見つめられ、息を呑む。あまり強く握ると潰してしまいそうで、腕を離そうとした。それを女性が掴み、ネクタイを巻きつけてリボン結びする。足を震わせながらも頬に手を添えて、甘い声で囁いた。
「こういう……こと、スキ……じゃない人、いない、でしょ?」
 唇を奪われる……前に、女性の口を手で塞いだ。女性は目を丸くして驚き、
「初めて会った人に変なことはできません」
 すぐに手を離して距離を取る。右手に女性の赤い口紅がついてしまった。そういう女性はバランスを崩して倒れるところだった。支えようと手を伸ばす前に、女性は膝をまっすぐにして体勢を整えた。甘い囁きとは別に、ブルーの瞳に影が落ちる。
「そう……」
 伏し目がちに残念がったけど、次の瞬間には再び光が灯った。手袋をした右手を差し出し、柔らかく笑う。その笑顔に胸が高鳴ったような気がして、一歩進んでしまった。
「なら……踊って?」
 恭しく頭を下げて、またしても提案してくる。一度断られたくらいじゃ、この人は簡単に折れなそうだ。
「踊る……?」
「来て」
 呆然とする俺の手を引いて、開けたホールへと向かった。手袋をしていたけど、彼女の手はひどく冷たい。夜風に当たって、すぐに室内に戻ったかのように。抵抗して彼女の腕がちぎれるかもしれないと思い、大人しくついていった。ホールは明かりが消されて暗く、演奏団がいないから音楽もない。どうやって踊るのだろう。俺は、少しだけ考えてネクタイを解き、ポケットに入れ、ボタンを留めた。終わるころを待って、彼女は俺の腕に左手を添えて、右手は握る。ライトも音楽もない、不思議なダンスが始まった。
 いきなり踊ろうと誘った女性は、やりたいことと身体の動きが合っていなかった。基礎的なことは覚えているようだった。なんというか、足がうまく動いていない。踏まないように注意を払った。足元……ハイヒールやパンプスではなくて、ブーツを履いていることも気になる。ダンスには不向きだろう。ジャスミンの香水も気になったけど、言及する時間がなかった。女性が止まると、頭を下げる。
「おやすみなさい、ヴェル。素敵な夢を見てね」
「待って! あなたの名前は……!?」
 カタン、と何かが落ちる音がした。慌てて駆け寄ってカーテンを開けるも、そこにはだれもいなかった。ジャスミンの香りさえ一緒に持って行って。
「……なんだったの……?」
 俺の情けないつぶやきは、夜空に溶けて消えた。
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