血に塗れた氷の騎士

fireworks

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12話 氷のドレス

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12話 氷のドレス
「疲れた……」
 くたくたの愛想笑いに辟易する。この会場にいるほとんどの参加者は上辺だけの表情で、中には不満を晴らしたいだけの会話も聞こえた。詮索、情報操作、余計な世話。ただ立っているだけでも疲労がたまった。普段ほとんど人と話さないから、様々な種類の顔が通り過ぎて、耳に入ってくる情報量に圧倒された。用意された食事も喉を通らず、酒は身体に悪いから断った。華々しいパーティーが終わり、より深い取引をしたい人は二次会に参加する。およそ半分の人が帰路に就き、残りは別の大ホールへと案内された。俺はその列には乗らず、人目につかない柱の裏に行って椅子に座った。無理をしたから、色々ガタが来ている。頭は痛くて息苦しい。そろそろ胸が詰まってもおかしくない。冷や汗が額に滲み、生唾を飲み込んだ。変な味がする。気持ち悪い。味付けされていないサラダしか口にしていないけど、これさえも出してしまったら……。
「……?」
 だれもいないはずのホールに、コツコツと足音が響いた。革靴ではなくて、ハイヒールのような。一定のリズムで、ゆったり歩く。近づいているとわかって顔を上げると、ふわりとジャスミンが香った。薄暗くて輪郭がぼやけているけど、ひとりの女性が俺の目の前に立っていた。淡い白色の髪は透き通っていて、腰のあたりまで流れる。繊細なサファイアのティアラと胸に咲いた青い薔薇が象徴的。海に溶けるブルーの瞳、ピアス、枝のように巻き付く、縛り付けるチョーカー。肌寒くなったのに上着は着ていない。ドレスの裾は膝より短くて、薄い靴下とブーツがはっきり見える。床についている長いレースは肩につながっていて、その形を維持する。ブーツには、胸の薔薇と同じものが施され、ヒールは10cm以上あるから歩きづらそう。
 こんなに綺麗な人、式では見かけなかった。一番目立っていたブレイカさえ到底及ばない。全身透き通った水色で、まるで「氷の騎士」を体現したような女性が、本当にいるなんて。
「あの……」
 女性はおずおずと話しかけて、目を伏せる。
「会場……遅れた……ここ?」
「……?」
 話し方を忘れてしまったような、言葉が途中までしか出てこない。とはいえなんとなく言いたいことはわかる。俺は立ち上がり、西側を指さす。
「パーティーの参加者ですか? 場所は西側の大ホールに変わったのですが……」
「もう……いい……」
「一体どういう……」
 女性は首を横に振り、少しずつ俺に近づいてきた。ヒールが高いからか、不安定な足取りだ。ネクタイを軽く引っ張り、左腕に手を添える。
「……何するのですか」
「やっと……会えた」
「え?」
 参加者にいなかったはずの女性が……何を言ってるんだ?
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