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11話 命令
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11話 命令
あれからそれほど時間も経たず、ついに婚約が正式に発表された。いまだに結婚するという実感が湧かない。現実味がない。俺は相変わらず両親のお荷物で、お邪魔虫で、否定されている。今さらどうしようもない。愛されたいとも、好かれたいとも、抱きしめてほしいとも思ったことはないから。俺がそれに相応しくないこと、両親がそんなバカバカしいことをしないとわかっている。
愛着の象徴を抱いているときに、両親から方法も実践も学ばなかった。唯一マリアンヌだけは教えてくれたけど、それがブレイカに伝わらないとなんとなくわかる。
今夜、婚約を祝うパーティーを開催した。ストローマ邸の一部を貸し切り、招待客とともに酒や食事を楽しむ。両家の両親が正式に顔合わせして、婚約したと認める大切な式だ。
事前に打ち合わせして、三度リハーサルに取り組んだ。今日の婚約発表パーティーも、結婚式も、万が一倒れたら華々しい式に泥を塗ることになる。気絶しないように薬の量を調整して、何かあったときのために各所に医者を配置しておいた。どうしても耐えられなくなったときは途中退席すると知らせてある。一応、できることはやっておいた。変なこと、混乱、騒ぎ、どれも起きないことを祈る。
格式高いパーティーのため、皆フォーマルな装いで参加している。着飾るという名の、己の権力の誇示。ブレイカのドレス、アクセサリー、ヘアスタイルはひときわ目立つ。丸く膨らみ、床につき引きずるほど長い裾、あしらわれたレースや薔薇、ちりばめられた宝石。ダイヤモンドのティアラ、存在感のあるピアス、家紋を模したネックレス。なめらかな茶髪は複雑に編み込まれ、固めてひとつにまとめる。クセもなくアホ毛も見当たらない。メイクもより濃くなり、深い赤色の唇は艶めいていた。あのジャスミンとは違う、さわやかなシトラスを漂わせて。
式中、ブレイカと俺は形式的な会話さえしなかった。隣に座りながらも、目を合わせようとしない。俺は、次々と来る招待客への挨拶で目が回っていた。次第に、彼女が席を立つ時間が長くなり、ひとり取り残されたような気持ちになる。そんなとき、両親が俺の目の前に現れた。
「セウェルス」
「はい」
厳かな雰囲気に、触れてはいけない領域。俺は、いつまで経ってもふたりを正面から見られない。ふたりの目は冷たく、反論を許さず、手段を与えない。父は顎を上げて偉そうに、母は扇で口元を隠した。
「せいぜい役目を果たしてから死ぬんだな。後は勝手にしろ。そして勝手に死ね」
「私たちを頼らないで頂戴」
回答はただひとつ。
「承知いたしました」
一方で、ブレイカは4人の令嬢に囲まれて談笑していた。最初は形式的な挨拶から始まり、徐々に奥深くへ入り込んでくる。令嬢との関係性はわからないけれど、彼女たちだって情報欲しさに様々な手を使うことだろう。その手の話題になると、ブレイカは見事なスルースキルで流した。
「婚約おめでとうございます、ブレイカ嬢」
「ありがとうございます」
「ところで、どうしてセウェルス様を選んだのですか?」
「うふふ。彼、意外と綺麗な方なのですよ」
「まぁ、素敵なご関係ですわね」
あれからそれほど時間も経たず、ついに婚約が正式に発表された。いまだに結婚するという実感が湧かない。現実味がない。俺は相変わらず両親のお荷物で、お邪魔虫で、否定されている。今さらどうしようもない。愛されたいとも、好かれたいとも、抱きしめてほしいとも思ったことはないから。俺がそれに相応しくないこと、両親がそんなバカバカしいことをしないとわかっている。
愛着の象徴を抱いているときに、両親から方法も実践も学ばなかった。唯一マリアンヌだけは教えてくれたけど、それがブレイカに伝わらないとなんとなくわかる。
今夜、婚約を祝うパーティーを開催した。ストローマ邸の一部を貸し切り、招待客とともに酒や食事を楽しむ。両家の両親が正式に顔合わせして、婚約したと認める大切な式だ。
事前に打ち合わせして、三度リハーサルに取り組んだ。今日の婚約発表パーティーも、結婚式も、万が一倒れたら華々しい式に泥を塗ることになる。気絶しないように薬の量を調整して、何かあったときのために各所に医者を配置しておいた。どうしても耐えられなくなったときは途中退席すると知らせてある。一応、できることはやっておいた。変なこと、混乱、騒ぎ、どれも起きないことを祈る。
格式高いパーティーのため、皆フォーマルな装いで参加している。着飾るという名の、己の権力の誇示。ブレイカのドレス、アクセサリー、ヘアスタイルはひときわ目立つ。丸く膨らみ、床につき引きずるほど長い裾、あしらわれたレースや薔薇、ちりばめられた宝石。ダイヤモンドのティアラ、存在感のあるピアス、家紋を模したネックレス。なめらかな茶髪は複雑に編み込まれ、固めてひとつにまとめる。クセもなくアホ毛も見当たらない。メイクもより濃くなり、深い赤色の唇は艶めいていた。あのジャスミンとは違う、さわやかなシトラスを漂わせて。
式中、ブレイカと俺は形式的な会話さえしなかった。隣に座りながらも、目を合わせようとしない。俺は、次々と来る招待客への挨拶で目が回っていた。次第に、彼女が席を立つ時間が長くなり、ひとり取り残されたような気持ちになる。そんなとき、両親が俺の目の前に現れた。
「セウェルス」
「はい」
厳かな雰囲気に、触れてはいけない領域。俺は、いつまで経ってもふたりを正面から見られない。ふたりの目は冷たく、反論を許さず、手段を与えない。父は顎を上げて偉そうに、母は扇で口元を隠した。
「せいぜい役目を果たしてから死ぬんだな。後は勝手にしろ。そして勝手に死ね」
「私たちを頼らないで頂戴」
回答はただひとつ。
「承知いたしました」
一方で、ブレイカは4人の令嬢に囲まれて談笑していた。最初は形式的な挨拶から始まり、徐々に奥深くへ入り込んでくる。令嬢との関係性はわからないけれど、彼女たちだって情報欲しさに様々な手を使うことだろう。その手の話題になると、ブレイカは見事なスルースキルで流した。
「婚約おめでとうございます、ブレイカ嬢」
「ありがとうございます」
「ところで、どうしてセウェルス様を選んだのですか?」
「うふふ。彼、意外と綺麗な方なのですよ」
「まぁ、素敵なご関係ですわね」
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