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10話 まさか、そんな
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10話 シャットダウン
……疲れた。
慣れないことをすると、本当に身体に良くない。商人の会話の駆け引きにため息が出る。頭痛がしてきて、予定より15分早く切り上げた。俺ではなくブレイカが。お互い当たり障りのない、社交辞令だけして茶会を閉じた。向かい合って座る席、思ったよりも距離を感じた。「あなたに話すことはありません」というシャットダウン。相手のことは聞くくせに自分のことを聞かれると話をそらす。だけど、俺のわがままで、婚約と結婚をひっくり返すことはできない。
嫌悪感を引きずって、別邸の部屋に帰ってきた。動きやすい、楽な部屋着に着替える。何気なくドアを開けたとき、部屋がきれいになっていて、腰を抜かすところだった。床には研究資料が散らばっていたけど、デスクの上に並べられている。日付、性質、結果のレポートなど、丁寧にカテゴリ分けまでして。その辺に転がっていた試薬瓶も全部回収されて、一番大きな木箱に収納されていた。不思議に思いつつ、服を戻すためにクローゼットを開ける。ここはいつも通りだ。
(使用人が来たんだっけ……。でも何のために? 今まで掃除したことなんてないのに)
だんだん不気味に思えてきて、せめて、クローゼットの中だけ綺麗にしておいた。ハンガーに袖をしっかり通して、靴下や防寒具は棚にしまう。やはり片付けは苦手だ……。できればしたくないけど、この年になってそんなこと言っているとは情けない。一応、結婚、するのだし……。
突然あした死ぬかもしれないのに? こんなことして何になる? そんな暇があるなら実験でも研究でもして……。
「突発的で短絡的な思考……。ほんと、バカだなぁ……」
ゴロゴロ転がして、試薬瓶を何本か手に取った。全部開けて、ぐちゃぐちゃに混ぜて流し込む。カラカラと瓶が手から転げ落ち、僅かに残った液が滴る。青、赤、緑、ネオンに光る鮮やかなシグナル。縛り付けてとらわれて。そして、灰になって這いつくばって。
もっと強い薬が欲しい。この単純な思考回路をショートさせて、まるで別人のように生まれ変わるような。副作用? そんなもの恐れていたら結果なんて出てこない。それで死ねるなら本望じゃないか。
「あれ……氷の騎士……今まばたきした? 手が動いた気が……」
目覚め、起床、惨劇、不調。
「俺、何のために……」
答えのない問いを、並べては拳で壊す。昨夜のことはよく覚えてないけれど、いろいろなものをやたらめったら混ぜて、気を失った。そしてまた床で寝落ちしていた。背中はバキバキ、頭はカチカチ、目はパチパチ。額を押さえ、紙ではない床に手を付けて起き上がった。……昨日の夢で、この氷の騎士が楽しそうに踊っていたような。
「まあ、人形が動いて喋るわけないか……」
……疲れた。
慣れないことをすると、本当に身体に良くない。商人の会話の駆け引きにため息が出る。頭痛がしてきて、予定より15分早く切り上げた。俺ではなくブレイカが。お互い当たり障りのない、社交辞令だけして茶会を閉じた。向かい合って座る席、思ったよりも距離を感じた。「あなたに話すことはありません」というシャットダウン。相手のことは聞くくせに自分のことを聞かれると話をそらす。だけど、俺のわがままで、婚約と結婚をひっくり返すことはできない。
嫌悪感を引きずって、別邸の部屋に帰ってきた。動きやすい、楽な部屋着に着替える。何気なくドアを開けたとき、部屋がきれいになっていて、腰を抜かすところだった。床には研究資料が散らばっていたけど、デスクの上に並べられている。日付、性質、結果のレポートなど、丁寧にカテゴリ分けまでして。その辺に転がっていた試薬瓶も全部回収されて、一番大きな木箱に収納されていた。不思議に思いつつ、服を戻すためにクローゼットを開ける。ここはいつも通りだ。
(使用人が来たんだっけ……。でも何のために? 今まで掃除したことなんてないのに)
だんだん不気味に思えてきて、せめて、クローゼットの中だけ綺麗にしておいた。ハンガーに袖をしっかり通して、靴下や防寒具は棚にしまう。やはり片付けは苦手だ……。できればしたくないけど、この年になってそんなこと言っているとは情けない。一応、結婚、するのだし……。
突然あした死ぬかもしれないのに? こんなことして何になる? そんな暇があるなら実験でも研究でもして……。
「突発的で短絡的な思考……。ほんと、バカだなぁ……」
ゴロゴロ転がして、試薬瓶を何本か手に取った。全部開けて、ぐちゃぐちゃに混ぜて流し込む。カラカラと瓶が手から転げ落ち、僅かに残った液が滴る。青、赤、緑、ネオンに光る鮮やかなシグナル。縛り付けてとらわれて。そして、灰になって這いつくばって。
もっと強い薬が欲しい。この単純な思考回路をショートさせて、まるで別人のように生まれ変わるような。副作用? そんなもの恐れていたら結果なんて出てこない。それで死ねるなら本望じゃないか。
「あれ……氷の騎士……今まばたきした? 手が動いた気が……」
目覚め、起床、惨劇、不調。
「俺、何のために……」
答えのない問いを、並べては拳で壊す。昨夜のことはよく覚えてないけれど、いろいろなものをやたらめったら混ぜて、気を失った。そしてまた床で寝落ちしていた。背中はバキバキ、頭はカチカチ、目はパチパチ。額を押さえ、紙ではない床に手を付けて起き上がった。……昨日の夢で、この氷の騎士が楽しそうに踊っていたような。
「まあ、人形が動いて喋るわけないか……」
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