9 / 51
9話 違和感
しおりを挟む
9話 違和感
「はじめまして。ブレイカ・ストローマと申します」
「こちらこそはじめまして。セウェルス・フォールディングです」
ついに、婚約者のブレイカ・ストローマと顔合わせする日がやってきた。謎の人物について結論が出ることなく、特に何も起きないまま今日を迎えた。
婚約、結婚、死ぬまで、生涯ひとりのパートナーを愛することは、スレートヴィス王国の法律で定められている。爵位ある貴族、最高権力者の王族でさえ重婚は禁止。とはいえ愛人を置くことは禁じられていない。爵位や財産の継承不可というデメリットがあっても、遊びたい人はそばに置き、条件を呑む。両親や兄姉はそういう人ではないし、そのように教わったこともない。弟妹だってきっとそうする。
周囲の関係性をたどるとよくわかる。恋愛結婚なんて夢のまた夢で、政略結婚のほとんどに愛がない。政治的あるいは経済的な駆け引きと子孫を残すため。俺は能無しだけど、両親の間に生まれた以上、自分の立ち位置と役割を理解している。
くだらない理想像なんかではなくて、ただ――。
「あなたのことはよく調べました。家庭教師をつけず、王立アカデミーに通っていたのですね。飛び級でいくつかの試験をパスして卒業したとか……。よく勉強したのですね」
「……」
「今は魔法薬草学の研究をなさっているとか。停滞気味と伺いましたが、これまでどんな成果を出しましたか?」
「……」
なぜだか、胸の奥が気持ち悪い。
ブレイカ・ストローマ。食品の輸出入に力を入れる商業一家、ストローマ家の末の娘、4女。既に、次期後継者は長女の夫と決まっている。両親から大層かわいがられた女性だと聞いたけど、なんというか、噂通りの人だ。
ふわりと揺れるなめらかな茶髪に、新緑を思わせる緑色の瞳を持つ女性。夏の木々と葉が思い浮かぶ。化粧は赤く濃く、素を隠す仮面をつけているみたいだ。つり上がった切れ長の瞳に、象徴的なアイライナー。膨らんだドレスの裾、あしらわれたレースとリボン。陽の光に照らされた大小様々な宝石。髪飾り、イヤリング、ネックレス、ブレスレット、指輪、ハイヒール。
「ご病気を煩っていると聞きましたが……」
悪い意味で、笑い方が俺の両親と似ている。目が笑っていない。作られたものだと瞬時に理解できる。
「お会いできて光栄です。……」
それでも、この場を提供し時間を割いてくれたことには変わりない。ストローマ家の別邸の一室で、小さな茶会に参加した。日の当たらないところで、1時間と制限を設けて。ストローマ家自慢の紅茶と菓子をいただき、一問一答の続きのない話をした。両親2組はフォールディング邸で、何か別の話をしているだろう。
どうせマイナスな状態から始まった関係だ、これ以上下げることはないように。違和感は見て見ぬふりして、目につかないところに放っておいた。
「はじめまして。ブレイカ・ストローマと申します」
「こちらこそはじめまして。セウェルス・フォールディングです」
ついに、婚約者のブレイカ・ストローマと顔合わせする日がやってきた。謎の人物について結論が出ることなく、特に何も起きないまま今日を迎えた。
婚約、結婚、死ぬまで、生涯ひとりのパートナーを愛することは、スレートヴィス王国の法律で定められている。爵位ある貴族、最高権力者の王族でさえ重婚は禁止。とはいえ愛人を置くことは禁じられていない。爵位や財産の継承不可というデメリットがあっても、遊びたい人はそばに置き、条件を呑む。両親や兄姉はそういう人ではないし、そのように教わったこともない。弟妹だってきっとそうする。
周囲の関係性をたどるとよくわかる。恋愛結婚なんて夢のまた夢で、政略結婚のほとんどに愛がない。政治的あるいは経済的な駆け引きと子孫を残すため。俺は能無しだけど、両親の間に生まれた以上、自分の立ち位置と役割を理解している。
くだらない理想像なんかではなくて、ただ――。
「あなたのことはよく調べました。家庭教師をつけず、王立アカデミーに通っていたのですね。飛び級でいくつかの試験をパスして卒業したとか……。よく勉強したのですね」
「……」
「今は魔法薬草学の研究をなさっているとか。停滞気味と伺いましたが、これまでどんな成果を出しましたか?」
「……」
なぜだか、胸の奥が気持ち悪い。
ブレイカ・ストローマ。食品の輸出入に力を入れる商業一家、ストローマ家の末の娘、4女。既に、次期後継者は長女の夫と決まっている。両親から大層かわいがられた女性だと聞いたけど、なんというか、噂通りの人だ。
ふわりと揺れるなめらかな茶髪に、新緑を思わせる緑色の瞳を持つ女性。夏の木々と葉が思い浮かぶ。化粧は赤く濃く、素を隠す仮面をつけているみたいだ。つり上がった切れ長の瞳に、象徴的なアイライナー。膨らんだドレスの裾、あしらわれたレースとリボン。陽の光に照らされた大小様々な宝石。髪飾り、イヤリング、ネックレス、ブレスレット、指輪、ハイヒール。
「ご病気を煩っていると聞きましたが……」
悪い意味で、笑い方が俺の両親と似ている。目が笑っていない。作られたものだと瞬時に理解できる。
「お会いできて光栄です。……」
それでも、この場を提供し時間を割いてくれたことには変わりない。ストローマ家の別邸の一室で、小さな茶会に参加した。日の当たらないところで、1時間と制限を設けて。ストローマ家自慢の紅茶と菓子をいただき、一問一答の続きのない話をした。両親2組はフォールディング邸で、何か別の話をしているだろう。
どうせマイナスな状態から始まった関係だ、これ以上下げることはないように。違和感は見て見ぬふりして、目につかないところに放っておいた。
1
あなたにおすすめの小説
どうかこの偽りがいつまでも続きますように…
矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。
それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。
もう誰も私を信じてはくれない。
昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。
まるで人が変わったかのように…。
*設定はゆるいです。
【完結】時計台の約束
とっくり
恋愛
あの日、彼は約束の場所に現れなかった。
それは裏切りではなく、永遠の別れの始まりだった――。
孤児院で出会い、時を経て再び交わった二人の絆は、すれ違いと痛みの中で静かに崩れていく。
偽りの事故が奪ったのは、未来への希望さえも。
それでも、彼を想い続ける少女の胸には、小さな命と共に新しい未来が灯る。
中世異世界を舞台に紡がれる、愛と喪失の切ない物語。
※短編から長編に変更いたしました。
遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。
沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】
積み上がった伏線の回収目前!!
夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。
長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。
待っていたのは、凍てつく絶望。
けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。
「夫は愛人と生きればいい。
今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」
それでも私は誓う――
「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」
歪で、完全な幸福――それとも、破滅。
“石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。
恋心を利用されている夫をそろそろ返してもらいます
しゃーりん
恋愛
ソランジュは婚約者のオーリオと結婚した。
オーリオには前から好きな人がいることをソランジュは知っていた。
だがその相手は王太子殿下の婚約者で今では王太子妃。
どんなに思っても結ばれることはない。
その恋心を王太子殿下に利用され、王太子妃にも利用されていることにオーリオは気づいていない。
妻であるソランジュとは最低限の会話だけ。無下にされることはないが好意的でもない。
そんな、いかにも政略結婚をした夫でも必要になったので返してもらうというお話です。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる