血に塗れた氷の騎士

fireworks

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31話 ついで

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31話 ついで
「今も昔も、女性の立場は男性よりも低いです。男性に頼りっきりだと生きていけませんから、戦える武器を磨いたのです。それが騎士道で、古語はついでみたいなものですが」
「あ、あんな難しい古語がついでだなんて……」
「武器は多ければ多いほど役に立ちます。そのふたつでも残ってくれて良かったです。おかげでここにいられますから」
 彼女は淡々と語ったけれど、俺は驚いて言葉を失っていた。
 今いう「古語」は、建国から1200年前ごろまで使われていた言語だ。時代の移り変わりとともに言語は変化していき、今使われているものへと形を変えた。文字も、発音も、追加された慣用表現も。古いものは次第に使われなくなり、使っていた人も死に、痕跡をたどることが難しくなった。廃れてだれも見向きもしなくなったころ、探検家たちが、僅かに残された資料を発見した。そこから古語の研究は始まったけど、いまだにわからないことが多いという。俺も勉強したことがあるけど、意味不明で量が多すぎる。今の言語のもとといっても、別物と疑ってしまうほど変わっているから。深追いすることはやめて、試験範囲だけ何回か復習したくらい。古語のほとんどは今使わないもので、何のために勉強するのか意味がわからなくなってしまった。
 学園長の会話、彼女の使っているワークブック、実際の発音や説明を目の前にしてよくわかる。とんでもないことをしようとしている。語学研究者を何人集めても足りないし、ここまでマスターした人はいない。「稀代の天才」とはこのことか。
「自信があるのですね」
「ええ。誇りを持ったから」
 彼女の武器――騎士道と古語。前者のことは話したり見たりするけど、後者は違う。それとなく話をそらして、切り上げることだってある。俺の浅はかな考えなのだけど……。騎士道、つまり武術は天性の才能と努力で成り立っている。ただ、言語は……生まれた環境によってある程度決まるもので、染み付いたものを変えることは非常に難しい。まして、それをだれかに教えるなど、研究者でもできない。
 だから……。
「……フローリアは……」
 言いかけて、相応しくないと思って口を閉じる。
「私が何か?」
 スルーせず不思議な顔をされて、仕方なく口を開く。
「いや、どこでどうやって育ったら、人間らしくなれるのかと思って……」
 彼女は顔に笑みを足して、不思議な表情と混ざらないように調整する。
「最初から人間らしさを持った人なんていないですよ。大事なことは、置かれた環境でどう生きるかですから。たまたま、私の環境は恵まれていただけです」
「なかなか……そういう風には考えられなくて」
「どうしてですか?」
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