血に塗れた氷の騎士

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46話 宝箱

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46話 宝箱
 1時間ほど別々の部屋にいて、状況と気持ちを整理した。時計を見たら3時を過ぎていて、眠気が尋常ではなかった。ついでに薬を飲み、胸に手を当てて息を整える。窓を開けて外の空気を取り入れ、頬杖をついて星空を眺めた。フォールディング家別邸の景色と全然違う。すぐ近くに民家があり、その後ろにきらめく海が沈む。酒を飲んで狂う男たち、夫婦の大喧嘩、人々の様々な声が響く。しばらく憂いで、ぼーっとして頭を空にした。
 再び会った彼女は、アカデミーの先生フローリア・メレルズと同じだった。落ち着いた口調を取り戻し、静かにチェアーに座っている。ブランケットはたたまれて椅子にかけられ、ベッド周りは綺麗に整えられていた。彼女はドレスをちゃんと着て、背筋を伸ばして待っていた。クローゼットを開け、夏用の上着を彼女に渡す。
「そのドレスだと寒いですから、これを着てください」
「……ありがとうございます」
 彼女は受け取り、ゆっくりと上着を羽織った。ボタンを上から下まで留めると、両腕や胸元が隠れる。俺はもうひとつのチェアーに座り、テーブルに置かれたペンを取った。メモを用意し、書く準備をする。
「色々と聞きたいことがあります」
「はい」
「あなたのことを一から教えてください」
 彼女は頷き、赤色の唇を開いた。
「はい、私は……1000年以上前に生まれた人間です。当時、結婚していた夫によって凍らされました。信じられないことでしょうけど……本当に私は氷になってしまったのです。そのまま長い眠りにつき、気がついたら小さな人形になりました。残念ながら、眠っていたときのことは思い出せません」
「確かに、いきなり10分の1サイズになることは不自然ですね。その夫という人に何かしたのですか? 或いは、何かされたのですか?」
 彼女はぎゅっとドレスの裾を握り、俯き、苦しそうに話す。
「夫は変わり者で、変な魔術に興味がありました。私を人間だとは思わず、面白い遊び道具だと思っていたのです」
「大変でしたね……」
「目が覚めて人形になったと気づいたとき、私は薄暗いところにいました。そこから長い時間が経って、ようやく光が差したとき、あの人が笑っていたのです」
「あの人?」
 彼女は話を一度区切り、顔を上げて俺の目をまっすぐに見た。
「あなたの乳母、マリアンヌ・スウィーティンです。私は彼女の家の宝箱で目覚めました。そして、あなたのプレゼントとして贈られたわけです」
 重要なことを話しているのだけど、すべてが明らかになったわけではない。この話をどこからどこまで信じるのかは俺次第だ。ひとまず、話の要点をメモにまとめる。
「そうだったのですか……。話してくださってありがとうございます」
「迷惑をかけてごめんなさい」
 申し訳なさそうに頭を下げる感じは、嘘には見えないのだけど……。
 時計を見ると、もう4時。朝焼けの時間が近づき、ペンをテーブルに置いて話を終わらせた。
「今日はもう寝ましょう。おやすみなさい」
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