血に塗れた氷の騎士

fireworks

文字の大きさ
50 / 51

49話 採用

しおりを挟む
49話 採用
「だれって、私は最初から言ってるじゃない! あなたよ!」
「どうしてそうなるのですか。あなたは妊娠7か月で、私たちは半年前に初めて会った。どう考えても計算が合わないのです。おわかりですか?」
「だからそれが違うと言ってるの! ずっと前に会って、幼いころから縁談の約束までしていたのよ」
 語気が増して怒り沸騰中のブレイカ。ちょっとつついたくらいで、粘着的にくっついてくる。生気のない瞳に、青くなった頬、真っ赤な耳。酷い顔だ。可愛いか否かの次元を超えて、化け物へと変わってしまった。
「そんなこと絶対にありえません。半年前『はじめまして』と挨拶したことを忘れたのですか? 縁談の話は今年の3月に初めて出ました。そこまで言うのなら、私たちが、いつどこでどのように知り合ったのか教えてください」
「4、5歳のときだわ! 本当よ!」
 はぁ、とため息が出る。
「私の両親は病弱な息子を恥に思い、すべての縁談を破棄したと言っています。ましてや、ストローマの話は聞いたことがありません」
 これだけ強く言ってもブレイカは引き下がらない。今度は、話をそらしてくる。
「……なんなの、あんた、さっきから私を悪者扱いしてるじゃない」
「妊娠を隠して婚約と結婚をしたからですよね? あなたが責められて当たり前ですけれど」
「だからそれが違うの! 浮気じゃなくてあなたの子よ! まったく、人の話を聞きなさいよ!」
 会話が終わっていないのに無理矢理被せてきて、自分の意見ばかりゴリ押ししようとするブレイカ。時間の無駄だ。立ち上がり、医者の診断結果をバッグに入れてドアを開けた。
「仕事があるのでここまでにします。あなたがまだ言い訳を吐く暇があるなら、別の時間に付き合いますよ」
「負け犬の遠吠えでもしてろ! ばーか!」
 捨て台詞は子供じみて、とても貴族令嬢だとは思えない汚い言葉遣いだった。

 同時刻、学園長と採用担当の事務職員がティータイムを楽しんでいた。場所は中庭、パーゴラの下。爽やかな風や、秋の涼しさを感じるのにぴったりだ。スッキリとした柔らかな風味の紅茶が提供される。事務職員が気にしていたことは、フローリア・メレルズ、学園長の独断で採用された謎の女性だった。
「それにしても、どうしてあの人を雇ったのですか?」
 思い切って尋ねると、学園長は頷く。
「ああ。メレルズくんのことか? 彼女はとても優秀な騎士でねえ。古語の実力も確かなのだよ」
「ですが、どこのだれともわからない人に先生を任せるとはどういうことですか!?」
 職員はその真意を問うと、学園長は紅茶を一口飲んで整然と答えた。
「彼女は語学力と武術に優れた逸材だ。古語の知識はもちろん、騎士道を極めている。特に後者は、国内外を見ても彼女の右に出る者はいない」
「しかし――」
 職員は悔しそうに下唇を噛み、言葉を詰まらせる。
「彼女は剣で食べていける唯一の女性と言えるだろう。あの剣さばき――間違いなくティルビーの型を習得している。1000年以上前、古語と同時期に霞んだシルバー・ヴァースの正当後継者だ。世界中を探しても見つからないほどの剣士が教師になりたいと言っている。子供たちの未来を考え、雇うことにしたのだよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

離婚すると夫に告げる

tartan321
恋愛
タイトル通りです

どうかこの偽りがいつまでも続きますように…

矢野りと
恋愛
ある日突然『魅了』の罪で捕らえられてしまった。でも誤解はすぐに解けるはずと思っていた、だって私は魅了なんて使っていないのだから…。 それなのに真実は闇に葬り去られ、残ったのは周囲からの冷たい眼差しだけ。 もう誰も私を信じてはくれない。 昨日までは『絶対に君を信じている』と言っていた婚約者さえも憎悪を向けてくる。 まるで人が変わったかのように…。 *設定はゆるいです。

【完結】時計台の約束

とっくり
恋愛
あの日、彼は約束の場所に現れなかった。 それは裏切りではなく、永遠の別れの始まりだった――。 孤児院で出会い、時を経て再び交わった二人の絆は、すれ違いと痛みの中で静かに崩れていく。 偽りの事故が奪ったのは、未来への希望さえも。 それでも、彼を想い続ける少女の胸には、小さな命と共に新しい未来が灯る。 中世異世界を舞台に紡がれる、愛と喪失の切ない物語。 ※短編から長編に変更いたしました。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
【3月中――完結!】 積み上がった伏線の回収目前!! 夫にも子どもにも、私は選ばれなかった。 長年の裏切りを抱え、離縁状を置いて家を出た――。 待っていたのは、凍てつく絶望。 けれど同時に、それは残酷な運命の扉が開く瞬間でもあった。 「夫は愛人と生きればいい。  今さら縋られても、裏切ったあなたを許す力など残っていない」 それでも私は誓う―― 「子どもたちの心だけは、必ず取り戻す」 歪で、完全な幸福――それとも、破滅。 “石”に翻弄された者たちの、狂おしい物語。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

恋心を利用されている夫をそろそろ返してもらいます

しゃーりん
恋愛
ソランジュは婚約者のオーリオと結婚した。 オーリオには前から好きな人がいることをソランジュは知っていた。 だがその相手は王太子殿下の婚約者で今では王太子妃。 どんなに思っても結ばれることはない。 その恋心を王太子殿下に利用され、王太子妃にも利用されていることにオーリオは気づいていない。 妻であるソランジュとは最低限の会話だけ。無下にされることはないが好意的でもない。 そんな、いかにも政略結婚をした夫でも必要になったので返してもらうというお話です。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

処理中です...