血に塗れた氷の騎士

fireworks

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50話 DNA

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50話 DNA
「おい、お前、ブレイカに何をした?」
「私に泣きついてきたのよ! あの子は妊婦なのに乱暴したそうね!」
 こうなることは、なんとなくわかっていた。ブレイカの操り人形師《・》ではなく、ブレイカの操り人形であるストローマ侯爵と夫人。ふたりは娘の言うことを頑なに信じ、真実から目を背けて拒もうとする。俺の両親であるフォールディング夫妻とほとんど同じだ。自分にとって都合の悪い話は無視して遠ざけ、都合の良い話だけを鵜呑みにする。そういう人には、何を言っても無駄だということを人生を通して学んだ。ただ、血のつながった両親から、妻の両親という義両親に変わっただけだ。
 ストローマ侯爵は憤怒し、俺のネクタイを引っ張って間接的に首を絞めようとした。胸ぐらを掴まれ、荒い息を吹きかけられる。ストローマ夫人は夫の影に隠れ、表に立たず針を投げる。攻撃力は侯爵が高いけれど、陰湿さは夫人が上回る。
「私は何もしていません。ブレイカが何と言おうと、それが真実です」
「うるさい! お前ただの婿のくせに生意気なんだよ!」
「生意気……」
 ネクタイを取られ、俺は投げ出されて床に倒れ込んだ。その拍子に尻もちをつき、左手で身体を支える。骨がぐにゃりと曲がった気がしたけど、そのときは特に気にせず、立ち上がった。目の前に立ちはだかるふたりの壁。腕を組み顎を上げて見下す侯爵、扇で顔を隠しにやりと笑う夫人。汚れてしまった手の埃を払い、目を合わせようとして俯いた。拳を握り、歯を食いしばる。
 反論しても何も意味がないことは知っている。でも何もせずに頷いていたら、両親の二の舞になる。それは嫌だ。嫌だ。嫌だけど……この人たちとずっと付き合っていく気はない。侯爵と夫人の死か、俺の死か、どちらが早いか。天秤にかけるまでもなく、結局、俺は楽な道を選ぶ。 
「あなた方とブレイカは、お腹の子の父が私だと思うのですね」
「そうだとも。娘がそう言うのだからな」
「……」
 侯爵は頷き、夫人は口を噤む。細かいことをもっと詰めたいところだけど、諦めて簡潔に伝えた。
「ならば、ブレイカの出産後に確かめましょう。血液検査をして、私が父親なのかはっきりさせるのです」
「ああ、やれるものならやってみろ」
「うふふふ」
 夫妻は自信満々で勝利を確信して笑った。一体、何を信じているのだか。でも、これは最初から勝ち目のない無駄な争いだ。既に、医者の診断で結果が出ている。5名の医者からの診断内容はすべて同じだったから。ブレイカが両親にどう伝えたのかは知る由もないけれど、そんなことどうだっていい。
 彼らの言うことが手に取るようにわかる。勝ち目がないのなら、何でもする。偽造でも、偽の証言でも用意すればいい。たとえ彼らがそうしても、何も手出しできない、確固たる証拠を用意しよう。
 DNAは誤魔化せないのだから。
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