7 / 54
1章 いびつなこころ
6話 ままごと
しおりを挟む
6話 ままごと
「パパ」
「ん?」
「あそぼーよ」
「そうだな。考え事をしていた。何で遊ぶ?」
「くまちゃん!」
「くまちゃんね。はい。どうぞ」
「わーい! パパ、ありがとう!」
あの事件から2年後。息子のアンブラは4歳、私は30歳になった。昔を振り返っても、この年代の子供は皆可愛い。少しずつ自我が芽生えて、個性を発揮する。アンブラは室内で遊ぶことが好きで、外にはあまり出ない。仕事中だろうが執務室のドアを慎重に開け、構ってと顔を出す。気付いたら集中できなくなって、仕方なくペンを置いて迎え入れることが多々。とはいえ悪い子ではないから、膝の上に座ったり、部屋で人形遊びをしたりとおとなしい。ペンを転がしたり、インクをばらまいたり、仕事の邪魔はしない。効率化を重要視するなら入れるべきではないが、結局、アンブラのアピールに屈してしまう。
アンブラは可愛い。息子だからさらに可愛い。可愛いという言葉が足りないほど可愛い。黒に青が混じったふさふさの髪、光の加減でピンクやオレンジに見えるつぶらな瞳。両親のどちらかに似ている、とはまだわからなくて、程よく特徴を引き継いでいる。顔は真ん丸で、手足が短くて小さい。その身体で、走ったり、すり寄ってきたりする。お腹いっぱい食べて、たっぷり遊んで、早めに眠りにつく。仕事やノナのことで手いっぱいだが、アンブラとの時間は大事にしたい。幼い自分にできなかったことが多いから、アンブラには幸せな幼児期を過ごしてほしいと願っていた。
「パパはうさぎちゃんね!」
「ああ」
今、アンブラと私はプレイルームにふたりきり。ほかの人はなるべく入れないようにしている。ふかふかのマットの上に柔らかい素材のブロック、ぬいぐるみ、小さな家が並ぶ。大きな窓から太陽の光が入り、室内は温かく明るく満たされた。アンブラはちょこんと、私は足を組んでマットの上に座った。
「いまからものがたりをはじめます! むかーしむかし。なかよしのくまちゃんとうさぎちゃんがいました! パパはうさぎちゃんね」
「うん」
アンブラから手渡されたうさぎのぬいぐるみ。白い毛に赤い瞳。長い間使っているから、手垢がついて黄ばんでいる。汚れていると言われればそれまでだが、過去に遊んだ記憶が蘇り、懐かしい気持ちになる。
「くまちゃんがりょうりをつくるので、うさぎちゃんはざいりょうをあつめにもりへいきました」
「森にはどんなものがあるのかな?」
アンブラの中では、景色は森らしい。マットの上でうさぎをそれっぽく動かした。
「おおきなおおきなきがあります! そして、うさぎちゃんはまっかなりんごをあつめました」
左手を木に見せて、おままごとセットから(皮付き)りんごを取って、落とすマネをする。うさぎの手を動かして掴み、とことこ歩かせた。
「つぎに、ちいさなやまごやをみつけました。そこにはいろいろなものがうっています。うさぎちゃんはすべてのそざいをあつめました」
「パパ」
「ん?」
「あそぼーよ」
「そうだな。考え事をしていた。何で遊ぶ?」
「くまちゃん!」
「くまちゃんね。はい。どうぞ」
「わーい! パパ、ありがとう!」
あの事件から2年後。息子のアンブラは4歳、私は30歳になった。昔を振り返っても、この年代の子供は皆可愛い。少しずつ自我が芽生えて、個性を発揮する。アンブラは室内で遊ぶことが好きで、外にはあまり出ない。仕事中だろうが執務室のドアを慎重に開け、構ってと顔を出す。気付いたら集中できなくなって、仕方なくペンを置いて迎え入れることが多々。とはいえ悪い子ではないから、膝の上に座ったり、部屋で人形遊びをしたりとおとなしい。ペンを転がしたり、インクをばらまいたり、仕事の邪魔はしない。効率化を重要視するなら入れるべきではないが、結局、アンブラのアピールに屈してしまう。
アンブラは可愛い。息子だからさらに可愛い。可愛いという言葉が足りないほど可愛い。黒に青が混じったふさふさの髪、光の加減でピンクやオレンジに見えるつぶらな瞳。両親のどちらかに似ている、とはまだわからなくて、程よく特徴を引き継いでいる。顔は真ん丸で、手足が短くて小さい。その身体で、走ったり、すり寄ってきたりする。お腹いっぱい食べて、たっぷり遊んで、早めに眠りにつく。仕事やノナのことで手いっぱいだが、アンブラとの時間は大事にしたい。幼い自分にできなかったことが多いから、アンブラには幸せな幼児期を過ごしてほしいと願っていた。
「パパはうさぎちゃんね!」
「ああ」
今、アンブラと私はプレイルームにふたりきり。ほかの人はなるべく入れないようにしている。ふかふかのマットの上に柔らかい素材のブロック、ぬいぐるみ、小さな家が並ぶ。大きな窓から太陽の光が入り、室内は温かく明るく満たされた。アンブラはちょこんと、私は足を組んでマットの上に座った。
「いまからものがたりをはじめます! むかーしむかし。なかよしのくまちゃんとうさぎちゃんがいました! パパはうさぎちゃんね」
「うん」
アンブラから手渡されたうさぎのぬいぐるみ。白い毛に赤い瞳。長い間使っているから、手垢がついて黄ばんでいる。汚れていると言われればそれまでだが、過去に遊んだ記憶が蘇り、懐かしい気持ちになる。
「くまちゃんがりょうりをつくるので、うさぎちゃんはざいりょうをあつめにもりへいきました」
「森にはどんなものがあるのかな?」
アンブラの中では、景色は森らしい。マットの上でうさぎをそれっぽく動かした。
「おおきなおおきなきがあります! そして、うさぎちゃんはまっかなりんごをあつめました」
左手を木に見せて、おままごとセットから(皮付き)りんごを取って、落とすマネをする。うさぎの手を動かして掴み、とことこ歩かせた。
「つぎに、ちいさなやまごやをみつけました。そこにはいろいろなものがうっています。うさぎちゃんはすべてのそざいをあつめました」
0
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます
おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。
if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります)
※こちらの作品カクヨムにも掲載します
私たちの離婚幸福論
桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。
しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。
彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。
信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。
だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。
それは救済か、あるいは——
真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。
双子の姉に聴覚を奪われました。
浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』
双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。
さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。
三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。
王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜
矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。
王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。
『…本当にすまない、ジュンリヤ』
『謝らないで、覚悟はできています』
敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。
――たった三年間の別れ…。
三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。
『王妃様、シャンナアンナと申します』
もう私の居場所はなくなっていた…。
※設定はゆるいです。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています
紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、
ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。
「もう君は、僕の管理下だよ」
退院と同時に退職手続きは完了。
住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。
外出制限、健康管理、過保護な独占欲。
甘くて危険な“保護生活”の中で、
私は少しずつ彼に心を奪われていく――。
元社畜OL×執着気味の溺愛社長
囲い込み同棲ラブストーリー。
わたしたちの庭
犬飼ハルノ
恋愛
『夜明けになるまで絶対に寝室の扉を開けないで』
未来の義母が告げたのは奇妙な夜の掟だった。
父に売られる形でブルーノ伯爵子息の婚約者になったフィリスの物語。
ヒロインのフィリスが自らの力と周囲の人々に支えられて幸せをつかむ話ですが、しばらくは暗く重い展開です。
タグを途中から追加します。
他サイトでも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる