心の面影

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1章 いびつなこころ

5話 弱み

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5話 弱み
 ノナの1日は、寝るところから始まる。完全に昼夜逆転してしまい、昼に寝て夜に起きるという不規則な生活。寝かせるのも一苦労で、何か癪に障るとすぐに手が出る。本当は、私が彼女のところにずっといることが理想だが、仕事のせいでどうにもならない。その場合は、女性の使用人が対応し、太陽が昇るころようやく眠りにつく。寝かせるというより、疲れて眠るのを待つ、とある人は語った。私がいるときは、彼女は気が済むまで殴ったり、無言で泣いたりしている。
 私が昼食を食べるころ、ノナは起きて、朝食なるものを食べる。どうしても外に出かけるときは別で、なるべく食事の時間は一緒に過ごしている。ただ、彼女は一般的な成人女性と同じ量を食べられない。皿半分で満腹を訴え、何か気になることがあれば皿を払いのける。声かけや片付けはしているが、それも限界に近づいていた。
 午後になると、仕事の続きを進める。一方、ノナは読書や小説を書くといった知的な活動をしている。すぐに飽きてしまうようで、何百冊と積み読みが増え、不思議な字が書かれた紙が床に散らばった。家の外で何かあっても困るから、室内のアクティビティを勧めている。まるで小さな子供を見ている気分だったが、そんなこと彼女に言えるわけなかった。
 夕食もふたりで食べる。ノナは基本的に1日2食、許容量は皿半分。感想を言うことなく、気になるとすぐ下げさせる。しまいには存在しない料理を口にするものだから、シェフは頭を抱え私に助けを求めた。私は食事をやめ、もう一度尋ねる。「食べたいものはなんですか?」大抵、私の前にあるものを指さすから、皿半分になるようにして渡す。受け取ると、何とも言えない微妙な表情で食べ進める。
 風呂に入れるなんて、労力も時間もかかる。心の面影も一緒に流せたらいいのに、と何度思ったことか。最初は手伝っていたが、嫌だと拒絶され辞めた。女性の使用人との激しい口論が聞こえるたび、胸が締め付けられた。
 頼りになる人や親戚がいればよいのだが、職業柄、人付き合いは慎重にせねばならない。一瞬のスキが一家の殺害と没落を招く。上の立場の人に怒られ、領地民には冷たい目で見られ、板挟み。ノナの親戚の話は何も聞いたことがない。私には弟妹がいるが、結婚し、家庭を築いた。忙しくて相手にしている暇もないだろう。互いの両親は、ノナに初めて会う前に死んでいた。せめて、ノナが昔のように笑っていてほしいのだが、現実はうまくいかなかった。
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