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1章 いびつなこころ
11話 約束
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11話 約束
「パパ~!」
夕食の前に、アンブラが遊んでいたプレイルームに寄った。アンブラはぬいぐるみ遊びをやめ、駆け寄って私の足にしがみつく。顔を埋める動きさえ可愛くて、高いところだが頭を撫でた。少しばかり元気がないようで、私から離れると床に座る。頬に空気を詰め、眉を傾けて、怒っているようにも見えた。
「ねえ、パパ」
「なあに」
私もマットに座り、なるべくアンブラの目線に合わせる。何かと尋ねようとすると、アンブラの表情は悲しくなった。
「どうして、ぼくはママにあえないの? もしかして、ママはぼくのこときらいなの?」
「……どうして……そうだね」
思ったよりも深刻な質問に、頭を抱えた。アンブラは、俯いたり私を見たりを繰り返している。悩んで、決心して、この子なりに尋ねたのだろう。幼い子の勘というものは妙に鋭くて、特に両親の関係に敏感だ。4歳の子に気を遣わせてしまった。こういうとき、ママが悪くないことを、小さい子でも理解できるような言葉として噛み砕く必要がある。「ママはアンブラに会う気がないの」「ママはそんな気分じゃないんだよ」なんて、思っても言ってはいけない。
不思議なことに、アンブラとノナが一緒にいるところを見たことがない。日中、私が仕事をしている間、直接見ていないから何をしているかわからないが……。アンブラが言うのだから、ノナとは会っていないのだろう。悲しいことに、ノナが息子に対して何か反応をすることはない。命懸けで産んだ大切な子供のはずだが……。しかし、使用人に聞いても会っていないと言うのだから、見たくない記憶と一緒に閉じ込めてもおかしくなかった。
夢にまで見た我が子。ノナが腕に抱き、私は小さな手に触れた。命の尊さを感じ、寄り添って眠ったのに……。
「ママはね、少し元気がなくておやすみしているんだよ」
「もしかしてびょうきなの?」
さらに鋭い質問に、迷いが露骨に顔に出る。アンブラは私の膝の上にのり、胸に抱きついた。とろんとした瞳に、僅かな興味と恐れが混ざっている。
「うーん……。そうだね。ちょっと不思議な病気で、治るのに時間がかかるんだ」
「ママにあいたいよ……」
縋り寄ってくるアンブラの頭を撫で、左手で抱きしめた。声が悲しくて泣きそう。こんなに小さな子に、母の現状を噛み砕いて説明されるなんて酷だ。だが、そうさせてしまっている。ノナを悪にしたいわけではないし、悪だとも思っていない。ただすれ違っているだけで、本当は……。
「大丈夫。ママはアンブラのことが大好きだよ。病気はお医者さんに治してもらおう。ママが元気になるまで、待っていようね」
「……うん。さびしいけど……まつよ」
アンブラの鼓動が落ち着いていく。トントンと背中をさすって、頭を撫でた。ようやくアンブラは顔を上げ、腕から離れて本棚へ直行。両手で一冊の絵本を握りしめた。
「あのね。パパ。これあげる。ママがすきなえほん! よんでくれるかな?」
タイトルは『移動式ベーカリー・ベリーブルー』。雲の上に乗って、海の街の人々にパンを届ける物語だ。様々なパンが登場し、説明文と併せて見るとお腹が空く、あの……まさか、母を思ってこんな絵本を持ってくるとは……。
「ありがとう。今度読み聞かせしてみるね」
絵本を握りしめ、アンブラに感謝した。すると、アンブラは得意げに笑みを浮かべた。子供の小さな願いだが、私の中では叶えると決めていた。
「やったあ! やくそくだよ?」
「パパ~!」
夕食の前に、アンブラが遊んでいたプレイルームに寄った。アンブラはぬいぐるみ遊びをやめ、駆け寄って私の足にしがみつく。顔を埋める動きさえ可愛くて、高いところだが頭を撫でた。少しばかり元気がないようで、私から離れると床に座る。頬に空気を詰め、眉を傾けて、怒っているようにも見えた。
「ねえ、パパ」
「なあに」
私もマットに座り、なるべくアンブラの目線に合わせる。何かと尋ねようとすると、アンブラの表情は悲しくなった。
「どうして、ぼくはママにあえないの? もしかして、ママはぼくのこときらいなの?」
「……どうして……そうだね」
思ったよりも深刻な質問に、頭を抱えた。アンブラは、俯いたり私を見たりを繰り返している。悩んで、決心して、この子なりに尋ねたのだろう。幼い子の勘というものは妙に鋭くて、特に両親の関係に敏感だ。4歳の子に気を遣わせてしまった。こういうとき、ママが悪くないことを、小さい子でも理解できるような言葉として噛み砕く必要がある。「ママはアンブラに会う気がないの」「ママはそんな気分じゃないんだよ」なんて、思っても言ってはいけない。
不思議なことに、アンブラとノナが一緒にいるところを見たことがない。日中、私が仕事をしている間、直接見ていないから何をしているかわからないが……。アンブラが言うのだから、ノナとは会っていないのだろう。悲しいことに、ノナが息子に対して何か反応をすることはない。命懸けで産んだ大切な子供のはずだが……。しかし、使用人に聞いても会っていないと言うのだから、見たくない記憶と一緒に閉じ込めてもおかしくなかった。
夢にまで見た我が子。ノナが腕に抱き、私は小さな手に触れた。命の尊さを感じ、寄り添って眠ったのに……。
「ママはね、少し元気がなくておやすみしているんだよ」
「もしかしてびょうきなの?」
さらに鋭い質問に、迷いが露骨に顔に出る。アンブラは私の膝の上にのり、胸に抱きついた。とろんとした瞳に、僅かな興味と恐れが混ざっている。
「うーん……。そうだね。ちょっと不思議な病気で、治るのに時間がかかるんだ」
「ママにあいたいよ……」
縋り寄ってくるアンブラの頭を撫で、左手で抱きしめた。声が悲しくて泣きそう。こんなに小さな子に、母の現状を噛み砕いて説明されるなんて酷だ。だが、そうさせてしまっている。ノナを悪にしたいわけではないし、悪だとも思っていない。ただすれ違っているだけで、本当は……。
「大丈夫。ママはアンブラのことが大好きだよ。病気はお医者さんに治してもらおう。ママが元気になるまで、待っていようね」
「……うん。さびしいけど……まつよ」
アンブラの鼓動が落ち着いていく。トントンと背中をさすって、頭を撫でた。ようやくアンブラは顔を上げ、腕から離れて本棚へ直行。両手で一冊の絵本を握りしめた。
「あのね。パパ。これあげる。ママがすきなえほん! よんでくれるかな?」
タイトルは『移動式ベーカリー・ベリーブルー』。雲の上に乗って、海の街の人々にパンを届ける物語だ。様々なパンが登場し、説明文と併せて見るとお腹が空く、あの……まさか、母を思ってこんな絵本を持ってくるとは……。
「ありがとう。今度読み聞かせしてみるね」
絵本を握りしめ、アンブラに感謝した。すると、アンブラは得意げに笑みを浮かべた。子供の小さな願いだが、私の中では叶えると決めていた。
「やったあ! やくそくだよ?」
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