心の面影

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1章 いびつなこころ

32話 自責

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32話 自責
 そして、事故は起きた。ノナは、裏の階段の踊り場で怪我をして子供を失った。そのとき、彼女はうつ伏せで倒れながらも、手でお腹を守っていたようだった。私はすぐに状況整理を行い、情報を集めた。しかし、犯人は現れなかった。怪しい人物もおらず、迷宮入りしてしまったのだ。今更だが、もう一度思い出してみる。「心の面影」の発生原因はあの事故で間違いない。あの日から、彼女は口を封じ、心を閉ざした。そこに解決の糸口はあるはずだ。
 そもそも、どうして彼女は人目につかない裏の階段で倒れていたのだろう。そこを使う理由も特にないはずだ。何か大変なことがあれば、使用人に頼むと大抵何とかなる。となると、人は不要だったということか。だが何のために使う? 人目につかないということは、文字通り人のいないところを狙っていた……のか? そこから進まない……。
 我が子の誕生を心待ちにしていた彼女が、自ら子を殺しに行くとは考えにくい。また、都合良くお腹の子だけを殺せるはずもない。2人目がほしいと言った彼女が手を下すか? やはりおかしい。矛盾している。
「心の面影……」
 人間に害を与え、見えるもの、見えないものと分けられる病気。これは仕組まれていたことでは? あの事故よりも前から彼女の症状は悪く、膨らんで破裂したのかもしれない。「心の面影」は自分の分身でもある。まるでもうひとりの人間。弱い自分。理想的な自分。あるいは正反対の自分。学習能力や頭脳が高い彼らは、元の主である人間をも騙せる。言葉巧みに誘導し、甘い夢を見せることも可能だ。
「……あり得るかもしれない」
 あの日、裏付けされた証言と仕事のマニュアルがある。おそらく、屋敷内のこの事故……いや事件……に人間は関わっていない。証言通り、彼女が既に倒れていたところを見たのだろう。「心の面影」が見えず、声も聞こえなければ、有利に働くから。
「だとしても……」
 「心の面影」を犯人扱いするのはいい。だが問題は変わらず、解決方法が見えてこない。今までの生活を変え、彼女には好きなことを好きなようにやってもらった。環境は変えられたはずだ。うんざりする社交界に参加する必要はないと伝え、堅苦しい仕事の分担をやめ、ひとりの時間も大切にしてきたと思う。話せないのなら、筆談や手話という別のツールを使う練習もして、芸術にも没頭していた。これでは足りなかったのだろうか? 「心の面影」の原因はどこにある?
 あの事件のことを思い出したくない。初めてノナと出会ったときのこと。彼女は生き倒れ、事件を知る関係者は行方をくらませた。そこを無理矢理掘り起こすのもどうかと思うし、彼女が壊れる決定打になるかもしれない。関係者がいたとして、14年前のことを覚えている人がいるだろうか……。早く、面影を見つけないと……。
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