心の面影

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1章 いびつなこころ

34話 カエルレウスへ

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34話 カエルレウスへ
「目覚めましたか」
「……」
「今後のことを決めました。聞いていただけますか?」
 彼女が目覚めるまでの3日の間、私はずっと考え事をしていた。「心の面影」の問題、離婚のこと、ノナの想い。やっと結論が出た。心苦しいし、簡単なことではないが……これが最善策なのだと思う。
 目覚めた彼女からは、感情という感情は読み取れなかった。死への執着や生への抗いはない。ボーっとしているようで、何も考えていないようにも見える。本当は何かを考えているはずなのに、疲れ切った表情で、天井を見つめて瞬きを止めていた。
 幸いなことに、彼女はマットの上に落ち、大きな怪我はなかった。シャンデリアの破片が一部飛んできてしまったものの、かすり傷で済んだとのこと。医者も特に問題ないと言っていた。あのとき、前もって動いてくれた使用人たちに感謝しなければならない。そして、今、一生懸命生きているノナに、最大の感謝を……。
「あなたに対する私の想いは変わっていません。私はあなたを愛しています。生きて幸せになってほしいと願っています」
 彼女の手をとり、握りしめた。彼女は虚ろな表情のままだったが、拒絶反応は見られなかった。
「離婚をする気はありません。ですが、環境を変えようと思っています」
「……」
「どこか別のところに住んでみませんか?」
「……?」
 彼女に提案したことは、環境を変える……住む家を変えるということだった。もしかしたらここに「心の面影」の原因があるのかもしれない。それに彼女が影響されているのであれば、場所を変えることがよいのかもしれないと思った。環境から来るストレスもあるというから。
「どう思いますか?」
「……」
 彼女は、やっと瞬きをした。

「私の妹がカエルレウスに住んでいます。既に連絡は通してあるので、この住所に行ってみてください」
「……」
 1週間かけて、使用人やノナと一緒に荷造りをした。最終段階に入り、ボストンバッグにすべての荷物が入った。名前と住所が書かれたメモを彼女の手に置く。彼女は俯き、遠慮がちに受け取る。破られたり、食べられたり、嫌なリアクションをされなかった。何を考えているのか、その一部はなんとなくわかる。だが、いちいち全部口にするわけにはいかなかった。
「付き添いは……要らないのですね。わかりました」
 ノナはこの提案を拒否せず、むしろ気持ちが傾いていた。進んで部屋を整理し、必要なものと不必要なものに分ける。本と本の間から一冊の手帳が出てきた。彼女は胸に抱き、思いを馳せる。何か思い出のこもったものだと思っていたら、意外にもそれが私の手に渡った。
「……」
(これ、どうぞ……もういらないので)
 と手のひらに載せる。
 青と白の一冊の手帳。黄ばんで、表紙が折れ曲がっている。それなりに年季の入ったものだろう。ここに、彼女の生きた世界と、見てきた記憶が刻まれていた。
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