心の面影

fireworks

文字の大きさ
51 / 54
2章 うんめいにみちびかれて

50話 ずっとここにいた

しおりを挟む
50話 ずっとここにいた
 次の日の昼。夫妻が仕事から一時的に離れ、家に帰ってきた。玄関には大量の積荷。何かと思っていたら、力持ちのガスが全部部屋に持っていった。そうこうしているうちに、パールが帰ってくる。
「ただいま戻りました」
「おかえり。さて、話をしましょうか」
「……」
 昨日盗み聞きしたことが定かならば、「あれ」が話題に出る。それはそうと、どんな話をされるのだろう。なぜ川に飛び込んだのか、家はどこなのか、結婚しているのか、子供はいるのか。一番の問題は、今後どうやって生きていくのか。
「……」
 考えるだけで頭が痛い。ワンピースの裾を握りしめ、口の中を噛んだ。見なくてもわかる。眉間にしわが寄ってしまう。ぐるぐると回る言葉から、どうやって正解を取り出せばいいのか。当然のことながら、だれも教えてくれない。
「そんなに緊張しないでください。尋問ではありませんから」
「……」
 肩に力が入って、睨みつけたように見えただろう。ガスの声で現実に戻るも、険しい表情を直すことはできなかった。見兼ねたパールが話を切り出す。
「単刀直入に申し上げます。ノナ様、この家で暮らしませんか?」
「……?」
「ノナ様には休息が必要です。前に進む勇気を持てるまで、ここで暮らしてみるのはいかがでしょう?」
 思ってもいない提案だ。信じられず、瞬きを2回。すべてを捨てようとしたことには触れず、柔らかな光となって道を照らしてくれる。道標みたいなものだった。
「洋服や家具を新しく買ったのです。お気に召したら着て使ってみてください」
(ありがとうございます)
「私たちに何でもおっしゃってください。ノナ様の希望に応えてみせます」
「お代はいりません。好きなように過ごしてください」
「……」
 顔見知りの子供とはいえ、ここまで丁寧に扱われるとは思っていなかった。彼らなりの手厚いもてなしに心が震える。今までのような暮らしは終わり、新たな生活が始まる予感がした。道標はある。あとは、踏み出す勇気を持つだけ――。
「実は、ずっと家で預かっていたものがあるのです。今、ノナ様にお渡しします」
 ガスはサイドテーブルに手を伸ばし、宝石箱のような正方形の箱を取り出した。何の変哲もない箱だ。でも、ガスの表情から、これがただの箱ではないと察した。何かわからないけど、重要なもの――。もしかして、昨日話していたことは……。
「……?」
「こちらは、ティベリウス・ヴィトリー様の持ち物です。ノナ様はヴィトリー様のご令嬢ですから、これを受け取ってください」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

旦那様、そんなに彼女が大切なら私は邸を出ていきます

おてんば松尾
恋愛
彼女は二十歳という若さで、領主の妻として領地と領民を守ってきた。二年後戦地から夫が戻ると、そこには見知らぬ女性の姿があった。連れ帰った親友の恋人とその子供の面倒を見続ける旦那様に、妻のソフィアはとうとう離婚届を突き付ける。 if 主人公の性格が変わります(元サヤ編になります) ※こちらの作品カクヨムにも掲載します

私たちの離婚幸福論

桔梗
恋愛
ヴェルディア帝国の皇后として、順風満帆な人生を歩んでいたルシェル。 しかし、彼女の平穏な日々は、ノアの突然の記憶喪失によって崩れ去る。 彼はルシェルとの記憶だけを失い、代わりに”愛する女性”としてイザベルを迎え入れたのだった。 信じていた愛が消え、冷たく突き放されるルシェル。 だがそこに、隣国アンダルシア王国の皇太子ゼノンが現れ、驚くべき提案を持ちかける。 それは救済か、あるいは—— 真実を覆う闇の中、ルシェルの新たな運命が幕を開ける。

双子の姉に聴覚を奪われました。

浅見
恋愛
『あなたが馬鹿なお人よしで本当によかった!』 双子の王女エリシアは、姉ディアナに騙されて聴覚を失い、塔に幽閉されてしまう。 さらに皇太子との婚約も破棄され、あらたな婚約者には姉が選ばれた――はずなのに。 三年後、エリシアを迎えに現れたのは、他ならぬ皇太子その人だった。

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。 王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。 『…本当にすまない、ジュンリヤ』 『謝らないで、覚悟はできています』 敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。 ――たった三年間の別れ…。 三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。 『王妃様、シャンナアンナと申します』 もう私の居場所はなくなっていた…。 ※設定はゆるいです。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

ブラック企業で倒れた私を、ネトゲ仲間の社長が強制保護して溺愛しています

紅 与一
恋愛
過労で倒れた私を救ったのは、 ネトゲ仲間――そしてIT企業の若き社長。 「もう君は、僕の管理下だよ」 退院と同時に退職手続きは完了。 住む場所も、生活も、すべて彼に囲われた。 外出制限、健康管理、過保護な独占欲。 甘くて危険な“保護生活”の中で、 私は少しずつ彼に心を奪われていく――。 元社畜OL×執着気味の溺愛社長 囲い込み同棲ラブストーリー。

わたしたちの庭

犬飼ハルノ
恋愛
『夜明けになるまで絶対に寝室の扉を開けないで』  未来の義母が告げたのは奇妙な夜の掟だった。  父に売られる形でブルーノ伯爵子息の婚約者になったフィリスの物語。  ヒロインのフィリスが自らの力と周囲の人々に支えられて幸せをつかむ話ですが、しばらくは暗く重い展開です。  タグを途中から追加します。   他サイトでも公開中。

処理中です...