ごめんね、足りなかったよね。

fireworks

文字の大きさ
28 / 153
1章 壊れた心

27話 起きてるよ

しおりを挟む
 無事に帰宅できた。オーレリアンのおかげだ。道案内してもらって、防寒具も借りたなんて感謝すればいいのやら。彼との約束を破った罪悪感よりも、オーレリアンの柔らかい表情やさりげない優しさが嬉しかったから。朝が来ればそのマイナスな感情も消え、穏やかな1日の始まりを迎えた。
 手袋やマフラーは数時間では乾かなくて、次の日に渡すことを伝えた。オーレリアンは「大丈夫だよ」と控えめに笑った。てっきり言葉の雨を食らうかと思っていたから、拍子抜けした。固まる私を見ても、オーレリアンの表情は変わらなかった。……なんでだろう? 今まで向けられた顔や言葉が嘘のようみたい。妹はいつも殺気立って、近くにいる両親は落ち着かない。クラスメートの一部の人たちは顔色を伺い、目を伏せ、曖昧に笑う。オーレリアンだって同じクラスメートなのに、だれよりも人間らしかった。
 
 いよいよ、来週から試験が始まる。この日のために基礎を固め応用問題を繰り返し解き、ミスを減らしてきた。間違いが多いところや、わからないところは早めに解決させ、先生の協力もあってここまで来た。その成果を充分に感じている。あとは本番の問題を解くだけ。決して簡単なことではなかったけど、後悔はしていない。私の本気をここにぶつける――!
 今日は3時間だけ眠り、いつも通りブレックファストを作った。ブレッド、豚肉ともやしの炒め物、昨夜の加熱ミネストローネ。時間がなくて炒め物にしてしまった。
「いただきます」
 ルームウェアを着たままの両親は、椅子に座ってゆっくりと咀嚼する。疲れ切った姿は相変わらずで、背中が曲がっている。充血、目の下のクマ、刻まれたしわ、白髪交じりの髪。休日は息を止めるように眠っていても、12時間ほど家から離れればだれだって疲れる。仕方ないけれど、それが家庭を支える両親のありのままの姿だった。
「ヴィアを起こしてくるね」
「……ああ」
 2階に上がり、ヴィアの部屋をノックした。返事はないけど、アラームが鳴っている。……全然起きそうにないな。仕方なく部屋に入り、大きく口を開けお腹を出している妹の肩を揺らした。
「ヴィア、朝よ。起きて……」
「……んー」
「時間がないわ。早く食べないと……」
 強く揺さぶっても、起きそうにない。足の部分から布団と毛布をめくり、ソファーにかけた。ゴロゴロと妹は眠っていて、私は息を吐く。すると、突然、特大の蹴りが私の脇腹にヒットした。
「!?」
「……むにゃ」
 続けてもう1発。今度はお腹を蹴られ、うっと低い声が出た。それでも、妹は起きない。ベッドから離れても起きず、私は途方に暮れてしまった。
「どうすればいいのかしら……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

思い出さなければ良かったのに

田沢みん
恋愛
「お前の29歳の誕生日には絶対に帰って来るから」そう言い残して3年後、彼は私の誕生日に帰って来た。 大事なことを忘れたまま。 *本編完結済。不定期で番外編を更新中です。

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
私は、夫にも子供にも選ばれなかった。 その事実だけを抱えて、離縁をつきつけ家を出た。 そこで待っていたのは、 最悪の出来事―― けれど同時に、人生の転機だった。 夫は、愛人と好きに生きればいい。 けれど、子供たちの心だけは、必ず取り戻す。 妻にも母にもなれなかった伯爵夫人イネス。 彼女が選び直す人生と、 辿り着く本当の幸せの行方とは。

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

王子様への置き手紙

あおた卵
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯

砕けた愛

篠月珪霞
恋愛
新婚初夜に男に襲われた公爵令嬢エヴリーヌは、不義密通の罪を被せられた。反逆罪に問われた彼女の一族は処刑されるが、気付くと時間が巻き戻っていた。 あなたへの愛? そんなものとうに、砕け散ってしまいました。

王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく

木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。 侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。 震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。 二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。 けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。 殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。 「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」 優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎泡雪 / 木風 雪乃

処理中です...