ごめんね、足りなかったよね。

fireworks

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1章 壊れた心

28話 甘美な毒

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 その後、10分ほど経過したら妹は1階に下りてきた。私も時間がなくて、家族の4分の1程度の量を食べ終わった。……デートのときもそうだったけど、本当に料理の味がしない。そして、すぐに満腹になる。具材が少しだけ入った、たった1杯のスープだけで、それ以上胃が受け付けなくなる。本当なら、数年前なら、もう少し食べられていたはずなのに。
『俺、太い人大嫌いなんだよね。ほら、見てよあの人。みっともない。生活習慣がだらしないよね』
『肥満は自己管理能力の低さを表しているよね』
『あれは同じ人間とは思えないよ。怠慢の証だね』
『ベイリーはそんな人になってはいけないよ? 多少の肉付きは可愛いかもしれないけど、脂肪を蓄えないようにね』
『甘いものは毒なんだよ。確かにおいしいけど、人間の身体を騙そうとしているんだ。甘い誘惑に誘われて食べないようにね』
『痩せているベイリーはとにかく可愛いね』
『絶対太らないでね』
 そんなわけ、ないか……。
 
 3人が出かけたあと、食事の片付けと戸締まりをして出かける。私が一番遅い。タスクや勉強はしっかりこなしたけれど、不安がないと言えば嘘になる。間違いという落とし穴が怖い……。まっさらな初見問題が出てきたらどうしよう。尽きない不安を抱えながらバスに乗った。窓際の席に座り、彼とのやりとりを眺める。あのデートから、途絶えてしまったメッセージ。私が何を送っても、彼は一切返事を送らなかった。readすらつかない。
「……あ」
 人前だというのに通る声が出る。短かったけど、一部の人の意識は私に向いた。それはすぐに収まり、私の目はあの人に釘付けだった。あの人……タヴィアン・レント。レンが、バスのたどるルート近くの歩道にいるなんて……。しかも、隣にいるのは知らない女性……。
(……うそ)
 そんなことない、と強く言い聞かせた。対向車が来て、角を曲がったからもう見えないけど。あれは、確かにタヴィアンだった。別に彼がいることは何ら不思議なことではない。通学路なんだから。それよりも――その隣で立ち、笑いながら肩を寄せる女性の姿が頭から離れなかった。
(そんなわけない……。レンの隣にいたのは……だれ?)
 手は震え呼吸が落ち着かない。顔に出さないように意識していたけど、残念ながらそうはいかなかった。外は極寒なのに、冷や汗が垂れて頬を伝う。目の前が真っ暗になる。床に足がつかない。……何、この得体のしれない感情! やり場のない気持ちは!? 何!?
「うっ」
 朝食べたミネストローネ。トマトの濃い味が、喉から口の中に溢れる。思わず手で塞ぐも、いつこぼれるかわからない。車内の揺れ、それとは違う不安から来る震え。歯を食いしばって耐えるけど、いつまで持つか……。
 ハイスクールまであと10分以上かかる。信号待ちは加味しない。
 無理矢理呑み込んで押し込み、苦い味が広がった。本当は早く降りたかったけど、途中で下車したら次のバスを待たなければいけない。間に合うのかな?
 どうか、耐えて――。
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