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1章 壊れた心
37話 壊れるよ
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「いえ、自分で帰れますので……」
「こんなに暗くて寒いのに、ひとりで歩こうとしないで! 何か取るわけじゃないから」
「母さん、怖がらせないで」
母をなだめるオーレリアン。車はエンジンをかけただけで、まだ走り出していない。断るなら今のうちだけど……。なんだか、オーレリアン母が怖い……! 話し方というか、もともとのお顔というか!
「ご迷惑をおかけしてすみません」
「迷惑じゃないから、早く帰ろうか。お家の人も心配してるよ」
下唇を噛み、首を横に振る。
「……いいんです。本当に。ひとりで帰れます。やることがたくさんあるので」
「その身体じゃ何もできないよ。寝るだけで限界さ」
「……でも、私が……」
――悪いから。自己管理できていなかったから。私のせいだから。関係のない人を巻き込みたくなんてないのに。
「私たちが心配してるよ。うちの息子が世話になってるから、他人じゃない。大丈夫。送って帰るだけだよ」
「……」
人生の経験者である両親の世代。まるで見透かされているよう。嘘をついてもいいことはない。時間が過ぎて気まずくなるだけ。
「家は……」
場所を伝えたあと、ユリシアは頷いて地図を確認する。そこまでのルートを導き出し、アクセルを踏んだ。
「ありがとう。なるはやで行くね」
「何分くらい?」
「うーん。30分はかかるかも。もう遅いし寝ていて」
「うん」
変な感覚。今でも信じられない。まさか、オーレリアンが隣にいて、その母が車を運転しているなんて。最近、私の周囲を取り巻く環境は確実に変化している。その良し悪し、今では判断できない。
ディナーは? と訊かれたけど、胃が受け付けないから断った。ユリシアは怪訝そうな顔だったけど、何かまずいことを言ってしまったかな。
「ローレンティア?」
「……あ、ううん。なんでも」
考え事をしていたから俯いていた。声をかけられ慌てて顔を上げると、突然腕が痺れた。朝怪我をしたところだ。なんで、今になって……。
「そこ、どうしたの? 新しいように見えるけど……」
「あ……これはね……」
目が左右に泳ぐ。なんて言おう。言葉がつっかえている時点でもう手遅れなのに。
……まだ大丈夫。私は大丈夫。
「紙で切ってしまったの。でも大丈夫」
「それは本当? 例の彼氏じゃなくて?」
「なんでそれを……」
すぐ否定すればよかったのに、事実を認めるかのように目を大きく開いてしまった。運転しているユリシアは、口を閉ざしているけど話を聞いている。瞳が動いているから。
「身体中のアザや古傷……。彼氏にやられたんじゃないの? 違うなら否定して」
「……」
違う。そうじゃないと言うべきだ。オーレリアンとは何も関係ない。かといって彼氏も責められない。私が悪いのだから。それ以上の理由なんてないのだから。
「ローレンティア。このままでいたら壊れるよ? 身も心も粉々になる。そうなってほしくないよ」
「こんなに暗くて寒いのに、ひとりで歩こうとしないで! 何か取るわけじゃないから」
「母さん、怖がらせないで」
母をなだめるオーレリアン。車はエンジンをかけただけで、まだ走り出していない。断るなら今のうちだけど……。なんだか、オーレリアン母が怖い……! 話し方というか、もともとのお顔というか!
「ご迷惑をおかけしてすみません」
「迷惑じゃないから、早く帰ろうか。お家の人も心配してるよ」
下唇を噛み、首を横に振る。
「……いいんです。本当に。ひとりで帰れます。やることがたくさんあるので」
「その身体じゃ何もできないよ。寝るだけで限界さ」
「……でも、私が……」
――悪いから。自己管理できていなかったから。私のせいだから。関係のない人を巻き込みたくなんてないのに。
「私たちが心配してるよ。うちの息子が世話になってるから、他人じゃない。大丈夫。送って帰るだけだよ」
「……」
人生の経験者である両親の世代。まるで見透かされているよう。嘘をついてもいいことはない。時間が過ぎて気まずくなるだけ。
「家は……」
場所を伝えたあと、ユリシアは頷いて地図を確認する。そこまでのルートを導き出し、アクセルを踏んだ。
「ありがとう。なるはやで行くね」
「何分くらい?」
「うーん。30分はかかるかも。もう遅いし寝ていて」
「うん」
変な感覚。今でも信じられない。まさか、オーレリアンが隣にいて、その母が車を運転しているなんて。最近、私の周囲を取り巻く環境は確実に変化している。その良し悪し、今では判断できない。
ディナーは? と訊かれたけど、胃が受け付けないから断った。ユリシアは怪訝そうな顔だったけど、何かまずいことを言ってしまったかな。
「ローレンティア?」
「……あ、ううん。なんでも」
考え事をしていたから俯いていた。声をかけられ慌てて顔を上げると、突然腕が痺れた。朝怪我をしたところだ。なんで、今になって……。
「そこ、どうしたの? 新しいように見えるけど……」
「あ……これはね……」
目が左右に泳ぐ。なんて言おう。言葉がつっかえている時点でもう手遅れなのに。
……まだ大丈夫。私は大丈夫。
「紙で切ってしまったの。でも大丈夫」
「それは本当? 例の彼氏じゃなくて?」
「なんでそれを……」
すぐ否定すればよかったのに、事実を認めるかのように目を大きく開いてしまった。運転しているユリシアは、口を閉ざしているけど話を聞いている。瞳が動いているから。
「身体中のアザや古傷……。彼氏にやられたんじゃないの? 違うなら否定して」
「……」
違う。そうじゃないと言うべきだ。オーレリアンとは何も関係ない。かといって彼氏も責められない。私が悪いのだから。それ以上の理由なんてないのだから。
「ローレンティア。このままでいたら壊れるよ? 身も心も粉々になる。そうなってほしくないよ」
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