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1章 壊れた心
63話 足りない!
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知らない人、知らない言葉。
思い返せば、私は息苦しくて鋏を手にしていた。この行動が正しくないとわかっていながら、衝動はどうにもならなかった。
彼と会っていない悲しみ、痛みの再現。記憶を掘り起こして、彼が私に何をしたのか思い出す。放置して、あしらって、傷つけた。頬を殴り、足を蹴り、髪を引っ張った。挙句の果てに首を絞められた。心が息苦しいときとは違って、物理的に息ができない感覚を忘れられない。
ナイフは外の気温よりも冷たくない。むしろ心地良い。溢れた血とぱっくり切れた傷跡、私が生きていることを証明する。どうせだれにも見られていないし、オーレリアンが近くに寄ってくることもない。それならザクザクと切れる。気が済むまで切ってやる。服で隠せるから躊躇う必要はない。青と水色の血管を、血の赤に変えてしまいたい。
……足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。
「あ……れ?」
ワークスペースからどうやって帰宅したのか何も覚えていない。妹を迎えに行った? ディナーを作った? 掃除は? 洗濯物は? 入浴は? 本当に何も記憶にない。
私は毛布と布団の上で寝転がり、右手に鋏を手にしていた。……ナイトウェアに着替えているから、風呂には入っただろうか? 現在時刻、23時59分。さすがに何もしない私を家族が放って置くわけなから、家のことを終わらせてからここに来たと思う。あの両親が後回しにして眠るわけないし、あした後悔することが分かるから。じゃあ、私はいつも通りのことができたんだ。多分。
「うう……さむ」
窓は閉め切って、カーテンも広げている。隙間という隙間は塞いだ。暖房はつけていない。気温は5℃。吐く息が白く見える。暖かそうな布団さえも冷たくて、冬を感じ、身震いして縮こまる。
そんなことより、なぜ鋏なんか手にしているのだろう?
不思議に思って左腕を見たら……おぞましい赤……。
「リリン♪」
「うわあ!?」
目にしたものと、スマホの音と振動で勢いよく起き上がる。さっき何をしていたのかさえ忘れてしまう。髪はボサボサだし、肌は荒れているし、指先がつららみたい。……そんなことより、聞き慣れない音だったから、気になってスタンドに置いていたスマホを手に取った。
だれかから着信? メール? 電話じゃないか。なんだろう?
「新しい友達追加……アンナ」
そんな人うちの学校にいなかったはず。なんだろう。恐る恐るメッセージアプリを開き、チャット欄を覗いてみた。理解した瞬間、鋏とスマホが落ちることも知らず。
『あんた、タヴィの彼女? さっさと別れたらどう? 彼は私のものだから。お前は捨てられたんだよ』
確固たる証拠が目の前に。
思い返せば、私は息苦しくて鋏を手にしていた。この行動が正しくないとわかっていながら、衝動はどうにもならなかった。
彼と会っていない悲しみ、痛みの再現。記憶を掘り起こして、彼が私に何をしたのか思い出す。放置して、あしらって、傷つけた。頬を殴り、足を蹴り、髪を引っ張った。挙句の果てに首を絞められた。心が息苦しいときとは違って、物理的に息ができない感覚を忘れられない。
ナイフは外の気温よりも冷たくない。むしろ心地良い。溢れた血とぱっくり切れた傷跡、私が生きていることを証明する。どうせだれにも見られていないし、オーレリアンが近くに寄ってくることもない。それならザクザクと切れる。気が済むまで切ってやる。服で隠せるから躊躇う必要はない。青と水色の血管を、血の赤に変えてしまいたい。
……足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。足りない。
「あ……れ?」
ワークスペースからどうやって帰宅したのか何も覚えていない。妹を迎えに行った? ディナーを作った? 掃除は? 洗濯物は? 入浴は? 本当に何も記憶にない。
私は毛布と布団の上で寝転がり、右手に鋏を手にしていた。……ナイトウェアに着替えているから、風呂には入っただろうか? 現在時刻、23時59分。さすがに何もしない私を家族が放って置くわけなから、家のことを終わらせてからここに来たと思う。あの両親が後回しにして眠るわけないし、あした後悔することが分かるから。じゃあ、私はいつも通りのことができたんだ。多分。
「うう……さむ」
窓は閉め切って、カーテンも広げている。隙間という隙間は塞いだ。暖房はつけていない。気温は5℃。吐く息が白く見える。暖かそうな布団さえも冷たくて、冬を感じ、身震いして縮こまる。
そんなことより、なぜ鋏なんか手にしているのだろう?
不思議に思って左腕を見たら……おぞましい赤……。
「リリン♪」
「うわあ!?」
目にしたものと、スマホの音と振動で勢いよく起き上がる。さっき何をしていたのかさえ忘れてしまう。髪はボサボサだし、肌は荒れているし、指先がつららみたい。……そんなことより、聞き慣れない音だったから、気になってスタンドに置いていたスマホを手に取った。
だれかから着信? メール? 電話じゃないか。なんだろう?
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そんな人うちの学校にいなかったはず。なんだろう。恐る恐るメッセージアプリを開き、チャット欄を覗いてみた。理解した瞬間、鋏とスマホが落ちることも知らず。
『あんた、タヴィの彼女? さっさと別れたらどう? 彼は私のものだから。お前は捨てられたんだよ』
確固たる証拠が目の前に。
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