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2章 殺してしまいたい
70話 来るなよ
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『ちょっと待って』
『何?』
『まだ終わらせたくない』
『……え?』
なんて変なことを言い出すから、口がへなちょこに曲がった。確かに、一方的に私が会話を切ったけど、これ以上話すことなんて何もないんじゃ。
『……ないよ。もう。ごめんなさい。さようなら』
オーレリアンが息を呑む。だけど、言葉にすることなく、無理矢理切り上げた。
『わかった。またかけるね。おやすみ』
昨日の今日で、出かけたくなかった。ハイスクールに行けば絶対にオーレリアンと話すことになる。目を見なくていいから電話をかけられる。或いは、いつでもどこでも使える便利なメッセージツールを使えばいい。……面と向かったら、狂気的になって吐いてしまうのに。いや、いっそ、嫌われてしまったらいい。今度こそ、ナイフを渡してお願いして。
ブレックファストは、ブレッドとサニーサイドアップ、オニオンスープを作った。行きたくないけど、行かなければいけない。いつまでも子供気分じゃいられない。会社を無責任に休めないから、安易にハイスクールを休んではいけないと心を圧迫する。家族と顔を合わせたけれど、特に話すことなく、行きのバスに乗った。片付けを終わらせ、洗濯物を干し、軽く窓を拭いてきた。少しは気が晴れた、と、思う。
昨日行かなかっただけなのに、もはや、車内が懐かしく思える。メンバーは同じで、通る道も同じで、私が変わっただけ。ただそれだけのことなのに、心は乾いて満たされない。
彼とメッセージのやりとりをしていたことが夢のようだ。今でも、会話履歴を開いてシミュレーションしてしまう。なんて返そう。不快にならない言葉は何? 量は控えめにしないと。どうすれば彼が笑ってくれる? そばにいられる? 何が足りない? 何が?
教室に着いて、教材をまとめて引き出しの中に入れた。昨日の復習をしなければいけない。家はハイスクールと違って、独特な緊張感がある。ここでなら集中できると思って、教科書と参考書を開いた。スマホでページを確かめ、あとはひたすら問題を解いていく。
「ラウ? おはよう!」
「……?」
朗らかな声が聞こえ、数字を書いていたペンを止めた。顔を上げると、噂話が好きな女子3人組のひとりが私に近づいてきた。彼女は私を見下ろすように、心配そうな声だけど、目が嘲笑っていた。
「おはよう?」
いつもの笑顔を貼り付け、口角が下がらないよう無理矢理上げる。
「昨日来なかったから心配してたんだよ! 何かあったの?」
「うん。少し頭が痛くて」
「そうなの!? 大変だったねえ」
後ろのふたりは、口を尖らせてそっぽ向いている。両目に潜む焦りと緊張を感じ取ったから、早く終わらせたいのだけれど。この3人以外に、斜め後ろにいるオーレリアンが気になって仕方ない。ベルが鳴るか、切り上げるかのふたつ。
「ああでも良かった。ラウがいないとイマイチ味気ないのよねえ。張り合いがないっていうか。とにかく戻って良かった! 寒くて体調崩しやすいよね? 気をつけてここに来てね! 風邪流行ってるから、本当に気をつけて! 暖かいところにいてね」
「うん。心配してくれてありがとう」
『何?』
『まだ終わらせたくない』
『……え?』
なんて変なことを言い出すから、口がへなちょこに曲がった。確かに、一方的に私が会話を切ったけど、これ以上話すことなんて何もないんじゃ。
『……ないよ。もう。ごめんなさい。さようなら』
オーレリアンが息を呑む。だけど、言葉にすることなく、無理矢理切り上げた。
『わかった。またかけるね。おやすみ』
昨日の今日で、出かけたくなかった。ハイスクールに行けば絶対にオーレリアンと話すことになる。目を見なくていいから電話をかけられる。或いは、いつでもどこでも使える便利なメッセージツールを使えばいい。……面と向かったら、狂気的になって吐いてしまうのに。いや、いっそ、嫌われてしまったらいい。今度こそ、ナイフを渡してお願いして。
ブレックファストは、ブレッドとサニーサイドアップ、オニオンスープを作った。行きたくないけど、行かなければいけない。いつまでも子供気分じゃいられない。会社を無責任に休めないから、安易にハイスクールを休んではいけないと心を圧迫する。家族と顔を合わせたけれど、特に話すことなく、行きのバスに乗った。片付けを終わらせ、洗濯物を干し、軽く窓を拭いてきた。少しは気が晴れた、と、思う。
昨日行かなかっただけなのに、もはや、車内が懐かしく思える。メンバーは同じで、通る道も同じで、私が変わっただけ。ただそれだけのことなのに、心は乾いて満たされない。
彼とメッセージのやりとりをしていたことが夢のようだ。今でも、会話履歴を開いてシミュレーションしてしまう。なんて返そう。不快にならない言葉は何? 量は控えめにしないと。どうすれば彼が笑ってくれる? そばにいられる? 何が足りない? 何が?
教室に着いて、教材をまとめて引き出しの中に入れた。昨日の復習をしなければいけない。家はハイスクールと違って、独特な緊張感がある。ここでなら集中できると思って、教科書と参考書を開いた。スマホでページを確かめ、あとはひたすら問題を解いていく。
「ラウ? おはよう!」
「……?」
朗らかな声が聞こえ、数字を書いていたペンを止めた。顔を上げると、噂話が好きな女子3人組のひとりが私に近づいてきた。彼女は私を見下ろすように、心配そうな声だけど、目が嘲笑っていた。
「おはよう?」
いつもの笑顔を貼り付け、口角が下がらないよう無理矢理上げる。
「昨日来なかったから心配してたんだよ! 何かあったの?」
「うん。少し頭が痛くて」
「そうなの!? 大変だったねえ」
後ろのふたりは、口を尖らせてそっぽ向いている。両目に潜む焦りと緊張を感じ取ったから、早く終わらせたいのだけれど。この3人以外に、斜め後ろにいるオーレリアンが気になって仕方ない。ベルが鳴るか、切り上げるかのふたつ。
「ああでも良かった。ラウがいないとイマイチ味気ないのよねえ。張り合いがないっていうか。とにかく戻って良かった! 寒くて体調崩しやすいよね? 気をつけてここに来てね! 風邪流行ってるから、本当に気をつけて! 暖かいところにいてね」
「うん。心配してくれてありがとう」
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