ごめんね、足りなかったよね。

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2章 殺してしまいたい

112話 群れる人

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 彼女は優秀で一目置かれる存在だった。しかし、すべての人に好かれていたわけじゃない。どこにでも、ひとり以上は好ましく思わない人がいる。厄介なことに、彼女の噂が広まるほど、憎悪も増していく。
 性別問わず、弱い者は群れる。ひとりじゃ、表立って他人を蹴落とすことは難しい。だから、仲間を作って非難を分散させる。そういう人を、タチが悪いという。
 だが、ローレンティアはそんな人をまったく気に留めていなかった。タヴィアン――彼氏がいたからだろう。交際していることを隠そうとしなかったし、常に堂々としていた。ムシが悪いと思った人が大半で、遊び半分で彼女をからかう人はいなくなった。
 彼女はいつも笑っていた。クラスメート、先生、他学年の先輩や後輩に対しても。だれにでも優しい人のように見えた。分け隔てなく接するから。まあ、その笑顔も、彼氏には勝てなかったが。彼女が笑い、彼氏が寄り添う。ふたりは順調に見えた。
 だが、幸せだった時間は一気に終わりを迎える。いつからか、彼女の笑顔が曇ったから。彼氏や周囲は気づいていないかもしれないが、俺にはわかる。彼女は笑いたくて、嬉しくて笑っているわけじゃない。「笑わないと」という強迫観念、「笑えば」彼氏が笑ってくれるという理想の押し付け。彼女は明らかに疲弊していた。しかし、だれひとりとして言及する人はいなかった。彼女の笑みは、心のこもったものではなく、演じるものへと変わった。当の本人はまったく気づいていないことが、非常に厄介だ。
 少し時間が経つと、新しい噂話を聞いた。どうやら、彼氏のお願いを彼女が断ったらしい。彼氏は彼女が受け入れてくれる日を待っていた。彼女の意思を汲まず、怒り狂ってしまったという。俺は、ちっぽけな争いだな、と思って呆れた。俺が言えることではないが、この年で無責任なことはすべきではない。
 そこから、彼氏の態度は今までと別人のようになる。ローレンティアの顔色は青白くなり、痩せてしまった。殻に閉じこもる。笑顔だけでなく、言動までも演技に変わる。メイクを濃くし、仮面を被り、長袖を着て肌を隠す。最初はだれも気付かなかったが、いつしかそれが「彼女」の姿になってしまった。
 どれだけ悪く言われようが、彼氏が豹変しようが、彼女は変わらず彼氏を待ち続けた。寒い日も、暑い日も、勉強しながらゲートのそばで立ったまま。当たり前のように過ぎていき、だれも気にしない。彼氏は姿を現したが、その顔にはポジティブな感情が読み取れない。彼女の腕を無理やり引っ張り、強引に連れていった。人目につかないところに隠れて、殴ったり首を絞めたりしているときもあった。暴力性に目覚めた彼氏は、とことん彼女を痛めつけた。だが、彼女は彼氏を待ち、会うと笑みを絶やさなかった。
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