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3章 こんな私でも
151話 見捨てない
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(まずい。全然終わらない……!)
昨日寝過ごしてしまった。よりによって、1時間目の授業の課題をやり忘れたっていうのに! やってしまった。教室についてから気づいたときの焦りは尋常じゃない。全員提出、締め切り厳守、遅れは認められない。HRや先生の話を聞かずに問題を解いた。A3プリント裏表を埋めなければいけない。しかも物理基礎! ほぼ数学! 計算式! パターン化すれば解けるかもしれない。が、一度出した答えは、そのまま次の問題につながる厄介な仕様。焦りと緊張が高まり、それが汗になって身体を冷たくした。
「あー、そういや次の時間は……」
「1週間もあったから解けるだろ」
「あれ終わるのに2時間もかかったわ」
「先生正気じゃないな。あの量」
「はあー。だるう」
生徒たちが移動を始めるが、俺は限界まで解こうとしていた。騒がしかった教室が少しずつ静かになる。友人が友人を誘い、バタバタと大きな音が耳に響く。しまいには電気を消され、窓から入る日の光を頼りにしてペンを動かした。
「……」
(本当にどうしよう。怒られるのは勘弁だ……。適当に書くか? いや、そんなことしたらもっと怒られるに決まってる。いっそ体調不良を装ってSickbayで休むか? 来られたらおしまいだな)
余計なことを考えると、ボキ、とシャー芯が折れた。振ると新しい芯が出てきたが、短いせいでプリントに落ちた。……音がしない。時間がないのに、替えないといけないなんて。
「あの、お困りですか?」
「……?」
そんなとき、だれかに声をかけられた。その人はずっと教室が静かになるのを待っていたようで、慎重に動く。俺の手元にあるプリントを見て、すぐに状況を察知した。
「それ、次の授業の課題だよね。良ければ、これ、どうぞ」
「……え?」
ローレンティア・ノクティス。常にだれかに囲まれている彼女が、一度も話したことのない俺に関わるなんて思いもしなかった。彼女の手には、今、喉から手が出るほどほしいカンペ――解答の書かれたプリントがある。まっすぐにそろった綺麗な字だ。俺にこれを渡しても、何のメリットもないのに。
「今日は先生が長めに話すと思う。クラスメートは先生と話したいみたいで、長引くから」
「ああ。そうだな」
それは本当の話で、授業時間を減らしたいクラスメートの策略だった。何の関係もない話を授業の前にして、先生の気をそらす。すっかり日常茶飯事になったが、話しかける生徒も、応じる先生も馬鹿げている。暇すぎて、俺はその時間にワークブックを解いているほどだ。
「先生の話している間に書き写してみて」
「でも、そしたら……」
「私は大丈夫。もう1枚あるから」
「……ありがとう」
彼女はにっこりと笑って去っていく。早速、プリントを見てみた。随分と丁寧に書かれている。ただ計算式を書くだけじゃなくて、手順までまとめるなんて。相当な時間がかかっただろう。そういえば、彼女は説明も上手だったはず。これが天性の才能と努力というものだろうか。ただ書き写しただけだが、勉強になった。
昨日寝過ごしてしまった。よりによって、1時間目の授業の課題をやり忘れたっていうのに! やってしまった。教室についてから気づいたときの焦りは尋常じゃない。全員提出、締め切り厳守、遅れは認められない。HRや先生の話を聞かずに問題を解いた。A3プリント裏表を埋めなければいけない。しかも物理基礎! ほぼ数学! 計算式! パターン化すれば解けるかもしれない。が、一度出した答えは、そのまま次の問題につながる厄介な仕様。焦りと緊張が高まり、それが汗になって身体を冷たくした。
「あー、そういや次の時間は……」
「1週間もあったから解けるだろ」
「あれ終わるのに2時間もかかったわ」
「先生正気じゃないな。あの量」
「はあー。だるう」
生徒たちが移動を始めるが、俺は限界まで解こうとしていた。騒がしかった教室が少しずつ静かになる。友人が友人を誘い、バタバタと大きな音が耳に響く。しまいには電気を消され、窓から入る日の光を頼りにしてペンを動かした。
「……」
(本当にどうしよう。怒られるのは勘弁だ……。適当に書くか? いや、そんなことしたらもっと怒られるに決まってる。いっそ体調不良を装ってSickbayで休むか? 来られたらおしまいだな)
余計なことを考えると、ボキ、とシャー芯が折れた。振ると新しい芯が出てきたが、短いせいでプリントに落ちた。……音がしない。時間がないのに、替えないといけないなんて。
「あの、お困りですか?」
「……?」
そんなとき、だれかに声をかけられた。その人はずっと教室が静かになるのを待っていたようで、慎重に動く。俺の手元にあるプリントを見て、すぐに状況を察知した。
「それ、次の授業の課題だよね。良ければ、これ、どうぞ」
「……え?」
ローレンティア・ノクティス。常にだれかに囲まれている彼女が、一度も話したことのない俺に関わるなんて思いもしなかった。彼女の手には、今、喉から手が出るほどほしいカンペ――解答の書かれたプリントがある。まっすぐにそろった綺麗な字だ。俺にこれを渡しても、何のメリットもないのに。
「今日は先生が長めに話すと思う。クラスメートは先生と話したいみたいで、長引くから」
「ああ。そうだな」
それは本当の話で、授業時間を減らしたいクラスメートの策略だった。何の関係もない話を授業の前にして、先生の気をそらす。すっかり日常茶飯事になったが、話しかける生徒も、応じる先生も馬鹿げている。暇すぎて、俺はその時間にワークブックを解いているほどだ。
「先生の話している間に書き写してみて」
「でも、そしたら……」
「私は大丈夫。もう1枚あるから」
「……ありがとう」
彼女はにっこりと笑って去っていく。早速、プリントを見てみた。随分と丁寧に書かれている。ただ計算式を書くだけじゃなくて、手順までまとめるなんて。相当な時間がかかっただろう。そういえば、彼女は説明も上手だったはず。これが天性の才能と努力というものだろうか。ただ書き写しただけだが、勉強になった。
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