ごめんね、足りなかったよね。

fireworks

文字の大きさ
189 / 193
エピソード

Ep.24 綻び

しおりを挟む
Ep.24 綻び
Ulysses Side
 私の策は成功したかのように思えた。定職に就き、セレスタリアを産んで、幸せな生活を送れるはずだった。長女の誕生で、一緒に住んでいた部屋が手狭になって、引っ越しまでして。最終的に、彼は結婚を約束してくれた。
 もちろんすべてがうまく行ったわけではない。仕事の内容は濃くなって責任も重く、子供を産んだからには育てないといけない。目が回るくらい忙しかった。セレスタリアはよく泣いて、全然眠らなくて、偏食で大変だった。それでも、愛する彼との子供を授かれたことは幸運で、無事に産まれて、順調に育った。あの子を抱いて、一緒に眠っているときは生きていて良かったと思えた。そして、過去の私と同じ道をたどらないように、「生んでなんて頼んでない」と言われないようにしなければいけないと誓った。アトラスと私は身を粉にして働き、家に帰ってくるとセレスタリアの世話に追われた。
 結婚式を挙げて、父と母と兄とそのほか親戚に、私の生き様を見せつけた。やっと見返せた。あの父の悔しそうな憤怒の顔が忘れられない。精々した。あんなやつ、取るに足らない小物だって、ひとりでいるときにゲラゲラ笑った。

 あの子を産んで4年が経ったとき、突然母から電話がかかってきた。ちょうど寝かしつけたところで、部屋を出てから通話マークを押した。
『やっと出てくれた。あのね、今すぐこっちに来てほしいの』
 母の取り乱した声なんて初めて聞いた。長ったらしい話が終わると、ようやく重要なことを言った。
 父が死んだ。ただそれだけ。
(ふーん。死んだのね。呆気ないわ。どうせなら、腐るまで生きて苦しめば良かったのに)
 棺桶に入っている姿を見たときでさえ、罵る言葉しか出てこなかった。父が嫌いだったから。むしろ、「やっと死んだか」が正しいのかな。一発殴ってやりたい衝動を抑え、セレスを抱きしめた。
「このひとだれ?」
「セレスのおじいちゃんよ」
「ふうん」
 4歳のこの子が本当の「死」を理解できるわけがない。結婚式で1度しか会っていない人だから、祖父だと言われてもわからないだろう。
 父は火に焼かれ、骨になり、骨壺に収まった。墓で眠り、もう姿を見たり声を聞いたりすることもない。……やっと執着が終わった。本当に終わった。
 終わった。
「ユリ」
「何?」
 頭を空っぽにして横になっていたら、アトラスに話しかけられて首を動かした。セレスはよくわからない行事に付き合わされて、よく眠っていた。
「俺はユリを置いて死なない」
 あんな父だったけど、少なからずダメージを負っていると思ったのだろう。彼の強い決心に頷き、ぎゅっと抱きしめた。
「うん……」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

走馬灯に君はいない

優未
恋愛
リーンには前世の記憶がある。それは、愛を誓い合ったはずの恋人の真実を知り、命を落とすというもの。今世は1人で生きていくのもいいと思っていたところ、急に婚約話が浮上する。その相手は前世の恋人で―――。

俺の可愛い幼馴染

SHIN
恋愛
俺に微笑みかける少女の後ろで、泣きそうな顔でこちらを見ているのは、可愛い可愛い幼馴染。 ある日二人だけの秘密の場所で彼女に告げられたのは……。 連載の気分転換に執筆しているので鈍いです。おおらかな気分で読んでくれると嬉しいです。 感想もご自由にどうぞ。 ただし、作者は木綿豆腐メンタルです。

カメリア――彷徨う夫の恋心

来住野つかさ
恋愛
ロジャーとイリーナは和やかとはいえない雰囲気の中で話をしていた。結婚して子供もいる二人だが、学生時代にロジャーが恋をした『彼女』をいつまでも忘れていないことが、夫婦に亀裂を生んでいるのだ。その『彼女』はカメリア(椿)がよく似合う娘で、多くの男性の初恋の人だったが、なせが卒業式の後から行方不明になっているのだ。ロジャーにとっては不毛な会話が続くと思われたその時、イリーナが言った。「『彼女』が初恋だった人がまた一人いなくなった」と――。 ※この作品は他サイト様にも掲載しています。

【完結】勘違いしないでください!

青空一夏
恋愛
自分の兄の妻に憧れすぎて妻を怒らせる夫のお話です。 私はマドリン・バーンズ。一代限りの男爵家の次女ですが、サマーズ伯爵家の次男ケントンと恋仲になりました。あちらは名門貴族なので身分が釣り合わないと思いましたが、ケントンは気にしないと言ってくれました。私たちは相思相愛で、とても幸せな結婚生活を始めたのです。 ところが、ケントンのお兄様が結婚しサマーズ伯爵家を継いだ頃から、ケントンは兄嫁のローラさんを頻繁に褒めるようになりました。毎日のように夫はローラさんを褒め続けます。 いいかげんうんざりしていた頃、ケントンはあり得ないことを言ってくるのでした。ローラさんは確かに美人なのですが、彼女の化粧品を私に使わせて・・・・・・ これは兄嫁に懸想した夫が妻に捨てられるお話です。あまり深く考えずにお読みください💦 ※二話でおしまい。 ※作者独自の世界です。 ※サクッと読めるように、情景描写や建物描写などは、ほとんどありません。

御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

鳴宮鶉子
恋愛
御曹司とお試し結婚 〜3ヶ月後に離婚します!!〜

(完結)貴女は私の親友だったのに・・・・・・

青空一夏
恋愛
私、リネータ・エヴァーツはエヴァーツ伯爵家の長女だ。私には幼い頃から一緒に遊んできた親友マージ・ドゥルイット伯爵令嬢がいる。 彼女と私が親友になったのは領地が隣同志で、お母様達が仲良しだったこともあるけれど、本とバターたっぷりの甘いお菓子が大好きという共通点があったからよ。 大好きな親友とはずっと仲良くしていけると思っていた。けれど私に好きな男の子ができると・・・・・・ ゆるふわ設定、ご都合主義です。異世界で、現代的表現があります。タグの追加・変更の可能性あります。ショートショートの予定。

腹に彼の子が宿っている? そうですか、ではお幸せに。

四季
恋愛
「わたくしの腹には彼の子が宿っていますの! 貴女はさっさと消えてくださる?」 突然やって来た金髪ロングヘアの女性は私にそんなことを告げた。

処理中です...