触れたいのに届かなくて

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1話 終わらせたくて

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1話 終わらせたくて
9月18日16時30分――ハイスクール
「もう疲れたの」
 ありきたりな言葉。そこにあると思っていたもの。それが全部ないと知ったとき、たまらなく虚しくなった。寂しくなった。悲しくなった。私というものが透明になっていく気がした。所詮私はだれかのために動く人形。傀儡。返事は「はい」。それ以外許されない。守らなければ罰が与えられる。断罪。無視。無情。無慈悲。無価値。私という人間は、だれよりも生きてはいけないのだ。
 私の右手には銃がある。昨日届いたものだ。すでに一発試し撃ちし、しっかりと弾が入っていることを確認している。ロシアンルーレットではない。確実に死ぬ。このときを待っていた。ようやくこのときが来た。私は死ねる。私は死ぬために生まれたのだ。
 思い出してみる。
 私は、ごく平均的な家庭に生まれた。5つ年上の兄と11歳下の弟。兄弟は成績優秀で将来を期待され、可能性を内に秘めている。兄は世界的に有名な大手企業に勤め、弟はエレメンタリースクール1年生ながら、すでに6年生クラスの頭脳を持つ秀才。ふたりは父と母、両親の期待の星である。兄は家から電車に乗って働く、口数少ないクールな成人男性。一方で、弟は小さくてカラフルなものが好きで、クラス内外に友人のいる、学年の中心人物だ。
 そのふたりを育て上げた両親も、難関大学をトップクラスで卒業し、一流企業の重職に就いている。朝は早く、21時帰宅の生活を何十年も続けるプロの仕事人。
 私はどうだろう。成績は下から数えられ、友人もおらず、何の取り柄もない。一家の恥だと罵られ、嘲笑われ、的にされた。でも知っている。自業自得。何の目標も立てず、努力もせず、毎日を無駄に生きてきた。手を翳しているだけで、掴むための行動をしなかった。私のせい。私が何もしなかったから。
 でももういいんだ。十分生きた。あれから18年、色々なことがあった。比較され、蹴られ、叩かれ。そんな人生はもう終わりだ。私は何をやってもうまくいかない。言語習得や運動能力の発達は遅く、学習能力も上がらず、家族がいるところでも緊張して言葉が喉を通らない。ここまで、恥を晒して生きたことは屈辱そのもの。
 だから私は死ぬ。
 死に場所はハイスクールの倉庫を選んだ。だれにも見られないまま、知られないまま、死んでしまいたい。この倉庫は鍵も壊れ、使われなくなった机と椅子があちこちに散乱している。乾燥した草の臭いがする。窓はあるけど、積み上げられた椅子のせいでかすかに光が入ってくるだけ。授業終わり、クラブに参加する人たちがいるから、だれも来ないはず。だって、もう使われないものしかないから、見向きもしないだろう。
 頭を貫けば長い時間苦しまずに済むだろうか。シミュレーションはできた。あとは引き金を引けば終わりだ。
「ガン!」
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