触れたいのに届かなくて

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5話 どうでもいい

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5話 どうでもいい
『俺はフィディリス・シュヴァリエ。さっきのことが心配で電話した』
 詐欺では、なさそうだけど。だからといって――。
『ルミナスの言う通り、話したことないから言いにくいだろうと思って。直接じゃなくて顔を見る必要ない電話で。何を思ってあそこにいたのか聞きたいんだ』
 そんな人、今までいなかった。聞いたことない。私がどう思ったか? そんなの、言わせるの? どうにもならなくて、苦しくて、手段がないから死のうとしたのに。
『……さっき話した通りよ。自暴自棄になって、終わらせようとしたの。もう疲れたから』
 首に手を当ててみて目を閉じる。痛い。いや、身体じゃなくて心が。それはきっと……。
『私、不器用で。ほかの人より努力しても足りなくて。その差が埋まらないと分かって、諦めた』
 嘘じゃない。フィディリスは、スマホの向こう側でじっと黙っている。
『もういいかな。じゃあ――』
 何か言いたげだったけど、思わず切ってしまった。なぜ私の電話番号を知っていたのか、よく分からないけど……。

21時30分――アルベール家
 あれから5時間ほど経って、4人が一気に帰ってきた。入浴と次の日の支度を済ませたら皆眠る。4人の動きは機械的で疲れが見られない。黙々とこなすだけ。必ず出迎えねばいけないため、嫌でも家族と顔を合わせなければいけない。怒りの先端に触れないよう、目を合わせず頭を下げておく。
「今日楽しかった! あのねー、ルーカスがねー」
「まあ素晴らしいわね」
「その調子だ」
「先に風呂入ってくる」
 リビングのソファーで座る私は蚊帳の外。バスタブはひとつしかないから順に入り、それ以外の人は話しながらあしたの準備をしている。その中心にいるのは弟だ。あどけない笑顔で、今日あった出来事を話している。それを聞く両親は、両手を合わせたり褒めたりして関心する。兄が風呂から出るまで耐えなければいけない。なぜなら――。
「上がりました」
 15分経って兄がリビングに来たら、弟が風呂に入り、両親の顔色が変わるからだ。私は立ち上がり、両親のもとへと行く。ダイニングで向かい合って座る両親は、しばらくあの笑顔を見せることはない。
「ルミナス」
「はい」
 両親の目は酷く冷たい。まるで冬場の氷のようだ。いや、ドライアイスというべきだろうか。触れたら火傷してしまう。
「もう12年生だろ。進路は決まったか」
「いいえ」
「成績で一目瞭然よ。この子の行けるとこなんて、せいぜい……」
 また始まった。論争。膨らんで広がる話。関係のない兄はルームウェアを羽織り、新聞の夕刊に夢中だ。
「お前は、意気地なしで勉強もしないダメな人間だ」
「成績も落ち続けているわね」
「お前の将来が心配でならないよ」
「まったく、どうして何もしないのかしらねえ」
「勉強できる環境はやった。クラブ活動も勧めた。欲しいものは十分与えた。何に不満がある?」
「この子、外ではなーんにも話せないのよ。恥ずかしいわ」
「兄や弟という優秀な模範がいるのにこのザマだ。見ろ、みっともない顔だな」
「恥だわ」
 毎日、傷口に塩を塗るように浴びせられた言葉。小さな傷が重なって、血が出て、治療もせず、大きくなった。大きくなってしまったのだ。それはもう、如何様どうしようもないくらい。もはや、身体のどこかに傷がついても、痛みを痛みだと感じられなくなった。
 私は本当に両親家族に似ていない。それは確かなことだと思う。両親、兄、弟が黒髪黒目でカラスのようなのに、私は銀髪パールパープルの瞳で明らかに目立つ。ふたりの実子なのか疑いたいくらいだ。でも、写真や映像で私が生まれた後は確かに記録されていて、反論の余地がない。
「ハイスクールを出たら、もう知らないわ。勝手にひとりで生きてちょうだい」
「二度と関わるな」
「はい」
 何もしなかった私のせいだから、だから、もう……。
 どうでもいい。
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