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18話 迎えが来ると信じていた

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18話 迎えが来ると信じていた
 午前4時以降、家族からの連絡はぱたりと途絶えた。弟がエレメンタリースクールを出てから24時間後、私は両親の言うことを守るために探し始めた。試験勉強を放り出して。何の手がかりも、何の情報もないから、適当に家の近くから探して。
 弟のことを考えてみる。弟の名前は、インサニア・アルベール。愛称はサニー。エレメンタリースクール1年生になったばかりの、あどけない幼さの残る子供。私とは11歳差で、兄とは16歳差。クラブ活動……は確か、ソフトボールだっけ。走ることが得意で、ボールの扱いも上手だと聞いたことがある。クラブにいる年上の人たちは、頼れる次期エースだと囁いていたっけ。
 もしかしたら、ボールを追いかけて、夢中になっていたときにだれかに唆されたかもしれない。「ボールを探してるの?」とか、「新しいものを買ってあげよう」とか。でも、そんな簡単にノコノコついていくかな? 大人顔負けに賢いときもあったのに、絆されるもの? それとも、経験のなさとボールには敵わないのかな?
 悪巧みをする子ではない。悪戯とは無縁だ。隠れて待ち伏せ、なんて趣味の悪いことはしない。
 草むらや、隠れられそうなドラム缶の中を見ていたけど、弟の姿はない。思っていることと行動が噛み合わない。……時間の無駄、だな。
 ……私も。
 幼いころ、弟と同じくらいのころ、両親や兄の気を引きたくてかくれんぼしていたときがあったっけ。

11年前
 最初は本気で見つからないようなところに隠れた。私がいなくなったら、冗談でも探してくれると思ったからだ。当時の通学路を使って、自販機と金網の裏で息を殺して待ち続けた。本気で待っていた。私がいないと気づいて、心配して、見つけて、抱きしめてくれると。
 信じていた。
 隠れてから7時間くらい経った。水も飲まず、蒸し暑い中よく耐えたと思う。人が通らない道だったから、自販機を使うような人もいなかった。私はというと、途中でかくれんぼに飽きて眠っていた。ようやく目が覚めたとき驚いたものだ。
 こんなに真っ暗だった? こんなに暑かった?

 23時を過ぎても付近を通る人はだれもおらず、両親が来たような感じもなかった。おかしい。恐怖と暑さで冷や汗が垂れた。身体が冷たくなっていく。いつも寝る時間だったからか、見慣れない夜の景色と空気に言葉を失う。足がすくむ。なんとか自販機と金網の隙間から抜け出せたものの、家が分からなくなってしまった。不思議な森に迷い込んだように、見慣れない夜は、ひとりの子供を恐怖のどん底に突き落とした。
 必死に家に帰ろうとすると、反対方向に行ったり、暴走している車に撥ねられそうになったりした。泣きながら歩き、身体を震わせて周囲を見渡した。実際、隠れたところと家の距離は1キロ(徒歩20分)と迷わなければたどり着けたはずだった。
 日付が変わって、ようやく家にたどり着いた。1時間以上、恐怖に潰されながら歩いた。見慣れた門扉が見えたとき、安心して膝から崩れてしまった。
 ……けれど。
「お前、どこで遊んでた?!」
 私の考えは、甘かった。
 待っていたのは優しさと心配ではなく、叱責と罰だった。
「痛っ……」
 頬を殴られた。衝撃で言葉が出ない。瞬きを1回したら、抑えていた感情があふれ出した。母は私を蹴り飛ばし、父は私の首根っこを掴んで睨みつけた。玄関のドアが開けられ、コンクリートに投げられる。凸凹の地面をこすって、腫れぼったい頬や膝から血が出た。花が咲くように、赤く。
「そこにいろ! 帰ってくるな!」
 延々と泣き続ける私、近所迷惑を考えずに感情を吐き出す。涙が止まらなかった。
 両親は普通に仕事をし、帰宅し、私がいないことを気にせず、のんびりとコーヒーを飲みくつろいでいたという。そう、兄が言っていた。
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