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19話 ユートピアへようこそ!
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19話 ユートピアへようこそ!
10月11日17時
弟と私じゃ、ずいぶん対応の早さが違う。薄々気づいていたけど、私って……愛されてないのかな……。何をしても怒られるってことは、そういうこと?
スマホを握りしめて唇を噛み、カーディガンの裾を引っ張る。一歩踏み出しても重みがない。軽い。私の命、多分軽いものだと思う。これだけ傷つけても、ちらつかせても何のリアクションもないから。だから、私があのとき死んでも、怪我しても、結末は同じ……。
そうか。そういう、人生だったのか。
別に寂しくなんてない。むしろこれでよかったかも。未練がないから。育ててくれたことには感謝しても、あとは心置きなく逝ける気がする。
なら、どうして……涙が止まらないのかな。
視界がぼやけている。足がふらついて落ち着かない。弟を捜していたはずなのに、また、あのときみたいに家がわからなくなって……。そして……。
ためていた息を吐いたら、前にだれかいることに気づかなかった。顔を上げるも、涙でだれかわからない。茶色……それだけは何となく見える。
「あなたは……?」
「何か、探してるの?」
「……はい」
この話し方と佇まい……女性かも。柔らかい声。母とは違う……。
「もしかしたら、この先にあるかもしれないわ」
「え?」
「あなたが探す天国、ユートピアが」
「ユートピア?」
「ええ。すべての人が幸せに暮らせる、素晴らしい場所よ」
女性との話に夢中で、スマホが鳴っていることにも気づかない。夕日が地平線に沈んでいく。カラスが巣に帰る。冷たい風。肌を突き刺すよう。夕食を準備する匂い。
なんて魅力的な話。すべての人が幸せに暮らせる? そんな場所、あるの?
「私なら、その場所へあなたを案内できるわ。ついてきて」
「……はい」
女性が手を差し出し、私はそれを握る。その瞬間、女性はニヤリと口角を上げた。
ユートピア。私が思い描く幸せ。どんなものだろう。傷つける必要のない、そんな世界だったらいいな。
「電話、出ないの?」
「はい。しつこいので」
「じゃあ行きましょう」
女性の優しい声に、安心してしまう。たとえ嘘でもいい。早く、こんな世界から去ってしまいたい……。そんな思いで、女性の手を信じて歩き続けた。
……はずだった。
(え……?)
連れてこられた場所は、廃れて使われなくなった公園の近くの廃屋。公園は、コケやツタ、カビが生えて使い物にならない。地面は腐った葉が積もっている。禍々しい空気。だれも近寄らない。こんなところにユートピアがあるとは、到底思えない。
「ここがあなたの求める場所よ」
女性は手を離し、廃屋のドアを開けた。廃屋……。今にも崩れ落ちそうな木造の建物だ。かつて倉庫として使われたのだろうか、鉄でできたよくわからないものが散らばっている。……臭いがひどい。鼻を突く異臭というか、卵が腐ったような臭いだ。……どんな道具があるのか見ようとかがむと、ドアが閉じられ、光がなくなってしまう。周囲の危険を察知するのに遅れ、気づけば、大きな石が私の頭上を狙っていた。
「ユートピアへようこそ!」
10月11日17時
弟と私じゃ、ずいぶん対応の早さが違う。薄々気づいていたけど、私って……愛されてないのかな……。何をしても怒られるってことは、そういうこと?
スマホを握りしめて唇を噛み、カーディガンの裾を引っ張る。一歩踏み出しても重みがない。軽い。私の命、多分軽いものだと思う。これだけ傷つけても、ちらつかせても何のリアクションもないから。だから、私があのとき死んでも、怪我しても、結末は同じ……。
そうか。そういう、人生だったのか。
別に寂しくなんてない。むしろこれでよかったかも。未練がないから。育ててくれたことには感謝しても、あとは心置きなく逝ける気がする。
なら、どうして……涙が止まらないのかな。
視界がぼやけている。足がふらついて落ち着かない。弟を捜していたはずなのに、また、あのときみたいに家がわからなくなって……。そして……。
ためていた息を吐いたら、前にだれかいることに気づかなかった。顔を上げるも、涙でだれかわからない。茶色……それだけは何となく見える。
「あなたは……?」
「何か、探してるの?」
「……はい」
この話し方と佇まい……女性かも。柔らかい声。母とは違う……。
「もしかしたら、この先にあるかもしれないわ」
「え?」
「あなたが探す天国、ユートピアが」
「ユートピア?」
「ええ。すべての人が幸せに暮らせる、素晴らしい場所よ」
女性との話に夢中で、スマホが鳴っていることにも気づかない。夕日が地平線に沈んでいく。カラスが巣に帰る。冷たい風。肌を突き刺すよう。夕食を準備する匂い。
なんて魅力的な話。すべての人が幸せに暮らせる? そんな場所、あるの?
「私なら、その場所へあなたを案内できるわ。ついてきて」
「……はい」
女性が手を差し出し、私はそれを握る。その瞬間、女性はニヤリと口角を上げた。
ユートピア。私が思い描く幸せ。どんなものだろう。傷つける必要のない、そんな世界だったらいいな。
「電話、出ないの?」
「はい。しつこいので」
「じゃあ行きましょう」
女性の優しい声に、安心してしまう。たとえ嘘でもいい。早く、こんな世界から去ってしまいたい……。そんな思いで、女性の手を信じて歩き続けた。
……はずだった。
(え……?)
連れてこられた場所は、廃れて使われなくなった公園の近くの廃屋。公園は、コケやツタ、カビが生えて使い物にならない。地面は腐った葉が積もっている。禍々しい空気。だれも近寄らない。こんなところにユートピアがあるとは、到底思えない。
「ここがあなたの求める場所よ」
女性は手を離し、廃屋のドアを開けた。廃屋……。今にも崩れ落ちそうな木造の建物だ。かつて倉庫として使われたのだろうか、鉄でできたよくわからないものが散らばっている。……臭いがひどい。鼻を突く異臭というか、卵が腐ったような臭いだ。……どんな道具があるのか見ようとかがむと、ドアが閉じられ、光がなくなってしまう。周囲の危険を察知するのに遅れ、気づけば、大きな石が私の頭上を狙っていた。
「ユートピアへようこそ!」
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