触れたいのに届かなくて

fireworks

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39話 いい気分だわ

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39話 いい気分だわ
「あはは……はは。何を言ってるの? 妄言? 狂言? 寝言? いずれにしても面白いわね。さっさと出ていって」
「……」
「部屋に入っても構わないわ。絶対に捨てない」
 ――それに、家族を使えば、追い出すことなんて簡単なんだから。
「俺が悪かった。言葉選びを間違えたんだ」
 フィディリスは申し訳なさそうに頭を下げる。まだ気が済まなくて、私は甲高く嘲笑った。首をかきすぎて、感覚がマヒしてきている。ぶちゅっ、と何かが切れる音がした。
「ちょうどよかったわ。あなたの前で死ねば、少しは気分が良くなるかもね」
 いっときの幸せ。後悔。そして死亡。それだけで十分、幸せなシナリオに違いない!
 フェンスの上に右足を乗せ、勢いをつけて左足も踏む。そして、バランスをとって銃を首に当てる。かゆくてたまらないから頭に当てられなかった。足が震えている。この前、アスレチックで遊んだときの感覚が少し生きている。不安定なところで、まっすぐに立つよう息を整える。バランス能力の向上がこんなところで役に立つなんて。
「なら受け止める!」
「……」
「死んでほしくないのは俺の我儘だから」
「……馬鹿みたい」
 どうせ心が読まれているのなら、全部口にしたっていいよね。
 震えているけど、ギシギシと軋んだ音がして興奮と緊張が高まる。フィディリスは両手を広げて、私はそれを軽蔑の目で見た。
「こんな人間のどこが好きなのか、私にはさっぱりわからない。馬鹿げてる。私は死ぬわ。あなたの前で。きっと素晴らしい最期になる」
 私の嘲笑に応えるように、フィディリスは言い訳を綺麗に並べた。
「俺にとっては悪夢みたいなものだ。だからやめて! 早く降りて!」
「嫌よ! 死ぬまで……死ぬまで降りない!」
 首に押し付けたから痛い。歯を食いしばって、息を止める。
 もう話す必要なんてない。何をためらっているの? 引けば楽になるのに。最高の死に方ができるのに。早く撃て! 撃たれろ! それで!
「……分かった」
 フィディリスはようやく諦めて、伸ばしていた手を引っ込めた。背を向けてアルベールの土地から出ていき、道路の真ん中に立つ。
「そう望むのなら」
 ……勝った。やった。自分の意見を押し通した。もうこれで満足だ。心置きなく死ねる。
「あ」
 ……いや、一筋縄でいかないのが私という人間だ。ツルツルで滑りやすいフェンスの上に、今まで立っていられたのが奇跡だった。心の油断から足が絡まり、真っ逆さまに落ちていった。きっと、今度は前のようにうまくいかない。本当に死ぬんだ。そう思いながら目を閉じ、迷わず引き金を引いた。……ものの、弾は予想外の方向に行ってしまった。
 本当に一瞬だった。これが死というものか。ずいぶんあたたかい……。
 そこからは何も考えずに目を閉じた。
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