触れたいのに届かなくて

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44話 顔の溶けた化け物

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44話 顔の溶けた化け物
 学芸員は私の腕を無理やり離し、代わりに恐竜の骨を握った。ガタン、と崩れる音がして一歩後ずさる。さっきまで笑顔で誇らしげに語っていた学芸員は姿を変え、目から血を流し飢えた化け物となって目の前にいる。
「……何をしているのですか?」
「何って……お前を殺すために蘇らせたの」
「……!」
 確かに骨だったはず。なのに、巻き戻し映像のように復元されていく。かつて生きていたはずの、恐竜。ここにあるものがレプリカなのか標本なのかわからない。けれど……確実なことがあるとすれば、ここにいれば命が危ないということ! 触れた骨の周りから形を取り戻していき、皮、皮膚、臓器、血管……バキバキと地面が壊れるような音とともに時間が反時計回りに変わる。恐ろしいことに、その標本だけ。いや、もう本物の恐竜だ。恐竜を囲むように風が舞い、ほかの展示物までもが引き寄せられていく。
 女性はニヤリと笑うだけで、私がどう動くのか待っている。私は目を左右に泳がせて次の行動を考えていた。何もしないか、突っ込むか、新しいことをするか。残念ながら、武器らしい武器はない。シャープペンか、カーディガンを使うか……あとは……。
「……!?」
「避けろ!」
 金属のドアが乱暴に開かれ、そこにフィディリスが銃を構えて立っている。
「ヒュン!」
 私は姿勢を低くし、威嚇も兼ねて撃たれた弾の行方を見守った。壁に穴が空くのみ。女性も察知して、さっとかわす。2対1、こちらがやや有利だ。
 女性はずっと笑顔だったけど、ここに来て顔を歪める。般若のような化け物。人のできることじゃない。口があり得ない方向に曲がり、目は溶け、爪は異常に長くなる。壁に大きな爪痕がついてしまった。
 ぼうっとしている間に、恐竜が完全復活を遂げた。床のプレートが雑に壊され、高級感のある大理石もバキバキに割れる。もう時間がない。低い姿勢でいながら、足りない頭で考える。
「ルナ! 受け取れ!」
 フィディリスが銃を投げる。弾はしっかり入っているから、これで戦える!
「まあいいわ。ここで殺してやる!」
 毒花をまとい、まき散らした女性はもはや本来の仕事を忘れ、完全に狂ってしまった。本来の2倍近く大きくなり、スーツを破って豪快に肌がさらされる。雄叫びをあげ、ドアを蹴り飛ばして走って逃げていった。
 焦りと不安がぐちゃぐちゃに入り交じり、一瞬の判断に迷う。すぐそこで殺人鬼が目覚めたというのに!
「があああああああ」
 爪で引っかく動きが見られ、タイミングを見計らって避ける。見えている。恐竜は攻撃性を持ち、視覚、嗅覚、聴覚で人を狙っている。雄たけびも大きくて身震いしてしまう。
 フィディリスは変わらず撃ち続けていたけど、当たっているのにダメージを与えることはできていなかった。恐竜の分厚い皮膚は、遠距離戦に強い銃は向かないらしい。それならば、と別のナイフを取り出した。サバイバルナイフ。刃渡り20cmほど。
「あの人はどうするの!?」
「追いかけて引きつけるぞ!」
「……!」
 フィディリスは別のサバイバルナイフを投げる。しっかりと受け取り、護身のために構えた。でも自信がない。恐竜は私よりもずっと大きいから、こんなナイフじゃ、太刀打ちできないんじゃー。
「行こう!」
 フィディリスを……信じたい。信じよう!
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