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1話 運命
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1話 運命
果たして、運命とは何を意味するのだろうか。
同じ毎日を過ごしてきた私にとって、心を埋めてくれる甘い誘惑なのか。この赤い線だらけの身体に、新しい傷をつけてくれるのか。
私はまだ知らない。この恋が、私を殺すための最適解なのか――。
「いらっしゃいませ」
「……」
駅から徒歩5分のところに位置する、バウンダリー夫妻の営むマグノリア・ベーカリー。ハード系のパンが並び、ジャムやドリンクも販売している。仕事前後のお客様が多く、人手が足りなくなるほど忙しくなる。落ち着いたクラッシック音楽が流れ、はやる心を整える。お客様が店内に入ると、ドアに取り付けられたベルが鳴る。
また、あの人だ。全身真っ黒で、フードで顔を隠した成人男性。特徴的なところやもの。高身長、筋肉質な身体、ジャラジャラとしたアクセサリー、香るウッディ。190cmくらいありそう。筋トレをしているのか、胸板が厚くてたくましい。二の腕も太腿も太い。私の2倍以上体重があるかも。高さのある黒のロングブーツで、さらに身体を大きく見せている。胸や指で光るサファイアの宝石。珍しい人で、2カ月前から毎日17時台にやってくる。ちょうど日が沈むころで、忙しいのに特徴的ですぐに覚えてしまった。体格に恵まれ、宝石好きで、顔を隠している人なんて、滅多にいないもの。
何十人とさばいて、その人の会計をすることになった。周囲の人も二度見するような人。目は見えないけど、うっすらと口元が笑っていた。
「お並びの方どうぞ」
「はい」
パン5つ、いちごジュース1本。豚肉とレタスのサンドウィッチ、チーズたっぷりピザ1切れ、マヨじゃがいも、ミルクこっぺパン、カメの形のクロワッサン。……なんとも言い難いチョイスだ。ひとりぐらしなのか、彼女がいるのかわからないけど。これをひとりで食べるとするなら、食べ盛りの男子だから普通なのか……? それとも、食べ過ぎなのか……? 私にはよくわからない。
いろいろと聞きたくなったけど、1客の相手をしている暇はない。パネルでパンの種類を選び、小さなビニール袋や紙袋に入れる。ひとつのビニール袋にまとめ、セロハンテープで留めた。いただいたお金を投入口に入れる。お釣りを渡し、袋の底と側面を持って……。
「あ」
その人の手が触れて、一瞬、頭で考えていたことが吹き飛んだ。
「失礼いたしました」
「こちらこそすみません」
すぐに手を離すと、その人がさっと袋を持ち上げ る。次の人もいるし、手短に済ませたい。詰まってしまうから、その人はさっと出口へ向かった。
「お気をつけてお持ち帰りください。ありがとうございます」
お決まりの挨拶で締めると、その人は振り向いて笑った。
「ありがとう」
果たして、運命とは何を意味するのだろうか。
同じ毎日を過ごしてきた私にとって、心を埋めてくれる甘い誘惑なのか。この赤い線だらけの身体に、新しい傷をつけてくれるのか。
私はまだ知らない。この恋が、私を殺すための最適解なのか――。
「いらっしゃいませ」
「……」
駅から徒歩5分のところに位置する、バウンダリー夫妻の営むマグノリア・ベーカリー。ハード系のパンが並び、ジャムやドリンクも販売している。仕事前後のお客様が多く、人手が足りなくなるほど忙しくなる。落ち着いたクラッシック音楽が流れ、はやる心を整える。お客様が店内に入ると、ドアに取り付けられたベルが鳴る。
また、あの人だ。全身真っ黒で、フードで顔を隠した成人男性。特徴的なところやもの。高身長、筋肉質な身体、ジャラジャラとしたアクセサリー、香るウッディ。190cmくらいありそう。筋トレをしているのか、胸板が厚くてたくましい。二の腕も太腿も太い。私の2倍以上体重があるかも。高さのある黒のロングブーツで、さらに身体を大きく見せている。胸や指で光るサファイアの宝石。珍しい人で、2カ月前から毎日17時台にやってくる。ちょうど日が沈むころで、忙しいのに特徴的ですぐに覚えてしまった。体格に恵まれ、宝石好きで、顔を隠している人なんて、滅多にいないもの。
何十人とさばいて、その人の会計をすることになった。周囲の人も二度見するような人。目は見えないけど、うっすらと口元が笑っていた。
「お並びの方どうぞ」
「はい」
パン5つ、いちごジュース1本。豚肉とレタスのサンドウィッチ、チーズたっぷりピザ1切れ、マヨじゃがいも、ミルクこっぺパン、カメの形のクロワッサン。……なんとも言い難いチョイスだ。ひとりぐらしなのか、彼女がいるのかわからないけど。これをひとりで食べるとするなら、食べ盛りの男子だから普通なのか……? それとも、食べ過ぎなのか……? 私にはよくわからない。
いろいろと聞きたくなったけど、1客の相手をしている暇はない。パネルでパンの種類を選び、小さなビニール袋や紙袋に入れる。ひとつのビニール袋にまとめ、セロハンテープで留めた。いただいたお金を投入口に入れる。お釣りを渡し、袋の底と側面を持って……。
「あ」
その人の手が触れて、一瞬、頭で考えていたことが吹き飛んだ。
「失礼いたしました」
「こちらこそすみません」
すぐに手を離すと、その人がさっと袋を持ち上げ る。次の人もいるし、手短に済ませたい。詰まってしまうから、その人はさっと出口へ向かった。
「お気をつけてお持ち帰りください。ありがとうございます」
お決まりの挨拶で締めると、その人は振り向いて笑った。
「ありがとう」
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