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第1章 砂都の夜明け
握られた欠片
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扉を出て、フィアはまだ誰もいない市場の通りをゆっくり歩いた。獣皮のにおい、干された果実の酸味、そして焼き粘土の舗装道に残る昨日の喧騒の名残り。それらが彼女の感覚をすり抜けていく。
けれど、胸元の重みだけははっきりしていた。
フィアはその“それ”を両手に取り出した。
灰白の光を帯びた結晶――昨夜、遺跡の底で見つけた“欠片”。
掌の中にあるそれは、まるで命があるかのように、かすかに脈を打っていた。
(……これは、なんなの?)
初めて見るはずのものなのに、触れた瞬間から、ずっと胸の奥に何かが引き込まれていた。
言葉にできない“知っている”感覚。
視線を落としたまま、フィアは結晶を握り込んだ。
するとその奥から微かに音がした。金属ではなく、風鈴でもなく――それは、呼吸に似た音だった。
「…………」
彼女はそっと耳を澄ます。
けれど、音はやがて消えた。
ただ、その残響だけが指の内側に染み込むように残っていた。
風はまだ鳴かない。
だがこの“欠片”は、風に似た何かを、確かに彼女に吹き込もうとしていた。
周囲の光がわずかに歪んだ。
それは蜃気楼のような揺らぎ――彼女の記憶の中にあった風景が、欠片の奥から逆流してくるようだった。
──石畳に落ちる光。誰かの笑い声。手を引いてくれた、誰かの手の温かさ。
だが、その誰かの顔は思い出せなかった。
まるでその部分だけ、絵から削り取られたように空白になっている。
「……お願い、教えて」
思わずそう声にした自分に、フィアは驚いた。
誰に向かって言ったのか分からない。けれど、欠片がわずかに光った。
まるでその“問い”に、応じるように。
風が吹かない朝に、光だけが、問いに答えていた。
けれど、胸元の重みだけははっきりしていた。
フィアはその“それ”を両手に取り出した。
灰白の光を帯びた結晶――昨夜、遺跡の底で見つけた“欠片”。
掌の中にあるそれは、まるで命があるかのように、かすかに脈を打っていた。
(……これは、なんなの?)
初めて見るはずのものなのに、触れた瞬間から、ずっと胸の奥に何かが引き込まれていた。
言葉にできない“知っている”感覚。
視線を落としたまま、フィアは結晶を握り込んだ。
するとその奥から微かに音がした。金属ではなく、風鈴でもなく――それは、呼吸に似た音だった。
「…………」
彼女はそっと耳を澄ます。
けれど、音はやがて消えた。
ただ、その残響だけが指の内側に染み込むように残っていた。
風はまだ鳴かない。
だがこの“欠片”は、風に似た何かを、確かに彼女に吹き込もうとしていた。
周囲の光がわずかに歪んだ。
それは蜃気楼のような揺らぎ――彼女の記憶の中にあった風景が、欠片の奥から逆流してくるようだった。
──石畳に落ちる光。誰かの笑い声。手を引いてくれた、誰かの手の温かさ。
だが、その誰かの顔は思い出せなかった。
まるでその部分だけ、絵から削り取られたように空白になっている。
「……お願い、教えて」
思わずそう声にした自分に、フィアは驚いた。
誰に向かって言ったのか分からない。けれど、欠片がわずかに光った。
まるでその“問い”に、応じるように。
風が吹かない朝に、光だけが、問いに答えていた。
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