空白樹の七片 ‐セプテントリオン・クロニクル‐ Ⅰ『黎明片 Dawnleaf』 記憶を失くした少女と、土に眠る欠片の目覚め

蒼野 湊

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第4章 村落炎上

灰白の兆し

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その夜、納屋の屋根裏に身を寄せたフィアの欠片が、静かに――だが確かに脈動を始めていた。
白い火花のような光が寝藁に一瞬だけ閃き、次の瞬間、彼女のまぶたの裏に“記憶の断片”が差し込んだ。

──砂に埋もれた神殿。灰白の空。塔の上から誰かが名前を呼ぶ、けれど声は風に溶けていく。

(あれは、夢? それとも……思い出?)

目覚めた彼女は、息を詰めながら欠片を手に取った。
掌に伝わる鼓動は、自分の心音と重なりながらも、どこか“他者の存在”を含んでいるようだった。

「……わたし、忘れていく……?」

傍らのリオが、目を閉じたまま静かに答える。
「存在の摩耗。それが〈欠片〉の共鳴に伴う、代償のひとつだと言われている」

「それでも、使うべきなの?」

「選ばれた者には、“使うしかない”時が来る……それを否定できた者は、たぶん一人もいない」

言葉を失ったまま、フィアは天井の木板の隙間から差し込む闇を見つめていた。
そのときリオが懐から一冊のメモ帳を差し出す。

「君の名前、書いておけ。何度でも。文字にして、声にして、忘れても……また思い出せるように」

フィアは、震える手で自分の名を書いた。
Fia Luth.

その筆跡を見つめながら、欠片が淡く光を放つ。
光は屋根裏の梁に跳ね返り、影の形を微かに変えた。

その夜、風の代わりに“囁き”が世界を撫でた。
誰にも気づかれぬその変化が、七つの界の歯車を、確かにひとつだけずらしていた。白い火花が寝藁に一瞬だけ閃き、彼女のまぶたの裏に夢の残響が差し込む。

──砂の中の神殿。塔の上から誰かが名前を呼ぶ声。
声の主は不明だが、確かに“自分”を知っていた。

目覚めた彼女は、枕元に転がっていた欠片をそっと握った。

「……わたし、忘れていく……?」

リオは黙って傍らに座っていた。
「存在の摩耗。それが〈欠片〉の共鳴に伴う、代償のひとつだと言われている」

「それでも、使うべきなの?」

「使うことが“選ばれる”ってことなんだろうな……」

沈黙が流れる中、屋根裏の木板が軋んだ。
リオが懐から一冊のメモ帳を取り出す。
「君の名前、忘れてしまうかもしれないだろ。書いておけ。何度でも、書いて、覚えていればいい」

フィアは、震える手で自分の名を書いた。
Fia Luth.
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