「最強令嬢、ついに本気を出す!正体バレ!?偽りの令嬢、もう演じない

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第108章 朕の通訳はどこだ

第108章 朕の通訳はどこだ

怒鳴っている、と言ったのは間違いではない。老婦人の表情には明らかに苛立ちと不満がにじんでいた。
だが、姜栩栩も顧京墨も、それぞれ海市と京市の出身で、彼女の言葉をまるで理解できなかった。

視聴者たちも同様に困惑。
【朕の翻訳官は? 早く出てこい】
【語学担当、老奶奶が何て言ったか訳してくれ】
【慶省の方言っぽいけど、俺慶省出身でもあんまりわからん】
【待て待て、いま翻訳中だから】
【翻訳きた:「お前ら何の番組だ! 誰があの家に住めって言った! よそ者が勝手に入り込んで……」】

カメラの前、顧京墨は不意の怒号に立ち尽くし、珍しく表情が固まる。
だが姜栩栩は濁った視線を受けても淡々としたまま、一歩踏み出して問いかけた。
「おばあさん、あの家の人をご存じですか?」

老婦人は鋭く睨みつけた後、何事かをまくしたてる。細部は聞き取れないが、「早く立ち去れ」という意味だけは伝わる。
そう言い捨てると、黒々としたカメラのレンズを避けるように背を向け、ふらつきながら屋内に消えていった。

――

拒絶された以上、二人が追って挨拶するわけにもいかない。
だが任務には影が落ち、顧京墨は初めてこんなに無礼な老人に出会ったのか、帰り道は終始気分が沈んでいた。

夕食時、それを敏感に察したのは霊真真だった。
「京哥、栩栩、お二人が外に出たとき、何かあったのですか?」

顧京墨は黙したまま。
姜栩栩は斜向かいの老婦人の件を簡単に話し、他の人が同じ目に遭わぬよう共有しておいた。

他の出演者たちは事情を察したが、カメラの前で隣人の悪口を言うわけにはいかない。
熱心なファンの中には、自分の推しが「理不尽に扱われた」と感じれば、過激な報復行為に走る者もいるからだ。

霊真真もすぐに不用意な質問をしたと気づく。
そこへ周察察が目をくるりと動かし、話題を巧みにすり替えた。
「おかしいなぁ。ネットじゃ“京墨の顔は上は八十歳、下は八歳まで誰でも落ちる”って評判なのに! どうしてあのおばあさんだけ……」

そしてわざとらしく肩をすくめ、
「だからこそ、挨拶役に推されたんだよね?」

姜栩栩は一瞬思い返すように目を伏せ、それから真顔で答えた。
「そのおばあさん、年齢が八十を超えていたんでしょう。」

場は一瞬静まり――次の瞬間、爆笑が弾けた。
周察察は声を上げて笑い転げ、
「間違ってない! ははは!」
霊真真も吹き出し、
「栩栩妹子、ユーモアわかってるじゃないか」
顧京墨までつい口元を緩める。

配信コメント欄も大盛り上がり。
【その通り! 京哥の魅力を否定できるのは八十を超えた人だけ】
【“除非過了八十歲”って新しい定番きたwww】

皆が笑いに包まれる中、姜栩栩は黙って茶を一口。
その杏のような瞳に一瞬だけ戸惑いの色を宿し、すぐに隠した。
……いや、本当に八十を超えていただけなのに。
なぜこれが笑いになるのか、理解できない。

だがその小さな仕草は、すでにカメラにしっかりと映っていた。
彼女の美貌を追っていた視聴者たちは、瞬時にその表情を切り取り、茶を飲んで誤魔化す様子をGIFにして拡散。

姜淮は画面越しにそれを見てにやりと笑い、自作のスタンプを保存。
さらにネットに疎い父親にも転送する。

――隣の書斎。
息子から送られたスタンプを見た姜家の父は、片眉を上げ不屑を浮かべつつも、アルバムに溜め込まれた栩栩のスクショをひとしきり眺め、再び配信を開いた。

――

こうして屋敷初日の夜は何事もなく過ぎた。
霊的な気配も一切なく、翌朝の配信コメント欄は「やっぱり心霊なんてあり得ない」と冗談交じりの笑いで埋まる。

前夜は緊張していた周察察も、翌朝にはすっかり元気いっぱい。
「初めてこんな屋敷で寝たけど、全然怖くなかった!」

目をこすりながら階段を降りてきた姜栩栩も、珍しく相槌を打つ。
「うん。ただ半夜、緊箍児を背負ってただけ。」

「ぷっ」霊真真が笑いをこらえきれず吹き出す。
そして少し真顔で続けた。
「心配いらないよ。この家は確かに風水的におかしいけど、危険はない。もし何かあれば、仙家が必ず知らせてくれるから。」

丸顔で人の良さそうな彼が言えば、冗談には聞こえない。
姜栩栩は一瞬視線を止めたが、言葉を飲み込む。
仙家は存在しても、彼がそれを感じたことはないだろう。

周察察は初めて聞く話に目を丸くする。
「仙家って本当にいるの? どんな姿なの?」
「一家に一柱だけ祀れるんだ。姿は普通の人には見えない。祀る者だけが交流できる。」
霊真真は胸を張った。

――

他の出演者も降りてきて朝食を終えると、今日の課題が発表された。
屋敷の「秘密」に関わる手がかりを探すというもの。

あらかじめ仕込まれたヒントも混ざっており、六人は三組に分かれて探索開始。
確かにいくつか「怪異」の痕跡は見つかる。

たとえば料理中に火が突然天井まで燃え上がり、女中が火傷したこと。
あるいは屋内に風鈴がないのに、風鈴の音が響くこと。

だが、どれも奇妙ではあるが「秘密」を解き明かすには弱い。

顧京墨は思案の末に言う。
「屋根裏を見に行こう。」

姜栩栩も頷き、彼とともに階段を上がる。
だが途中、壁に掛かった一枚の古い写真に目が留まり、足を止めた。

顧京墨は何か手がかりかと近寄るが、ただの子供の写真に見える。
「何か気づいた?」
半信半疑で問う。

すると姜栩栩は静かに答えた。
「この子供――昨日会ったあの老婦人と、血のつながりがある。」
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