「最強令嬢、ついに本気を出す!正体バレ!?偽りの令嬢、もう演じない

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第392章 従兄


第392章 従兄

その場にいた全員が一瞬ぽかんとした。

倒れた相手が誰なのか確認した瞬間、姜瀚が真っ先に声を漏らした。

「姜湛!!」

姜澄も思わず目を見開き、二人で慌てて路母の身体を払いのけ、倒れ込んでいた青年を抱き起こした。

路母もようやく状況を理解し、支え起こされた華奢な青年を見て、思わず口を開く。

「姜湛……姜家のあの口が――」

“哑”の字が出る寸前だった。

だが、その一言が出る前に、姜瀚の鋭い視線が鋭く突き刺さった。

わずか一瞥――それだけで、路母はまるで喉を締め上げられたように声を失った。

保安たちも倒されたのが姜湛だと気づき、顔色を変える。すぐに駆け寄って路母の腕を荒々しく掴み上げた。力が強く、路母は思わず悲鳴をあげるが、もう振りほどけない。

玄関口の騒ぎはすぐ屋内にも伝わり、執事が慌てて駆けつける。保安に引きずられていく路家夫婦を見て眉をひそめ、そして姜湛が立っているのを見て表情を一変させた。

「姜湛さま!どうされたのですか!?転ばれたのですか?すぐに家庭医を呼んで参ります!」

言うが早いか、走って行ってしまった。

姜栩栩は少し離れた場所で一部始終を見ていたが、この青年が誰かようやく理解した。

姜湛。

姜家の中で、彼女だけがまだ一度も会ったことのなかった従兄。

二房の長男で、姜瀚の実兄。幼い頃から身体が弱く、一年のうち十ヶ月は療養院で過ごすと聞いている。そして、声を失った青年。

姜家の他の子と比べても、存在が霞むほど薄い――そんな人物。

実際、目の前の青年は驚くほど華奢で、さきほど倒れただけで顔色が青ざめている。二人に支えられてようやく立っている状態だった。

姜瀚は、彼が立ち直ったのを確認すると、そっけなく手を離し、まるで縁のない相手のように横に立った。

姜湛は気にした様子もなく、もう一方の手もそっと引いて、軽く会釈で謝意を示すと、視線を上げ、ふと姜栩栩のほうを見た。

二人の視線が合った瞬間、姜栩栩は“何か”が妙に引っかかった。しかし血縁の影響のせいか、相手の面相をはっきり読み切れない。

姜澄はもう路家夫婦のことなど頭から消え、姜湛に向き直って声をかけた。

「どうして急に一人で戻ってきたんだ?付き添いの医療スタッフは?運転手は?みんな何やってるんだ?」

姜湛は一歳年下。幼い頃から病弱で内向的だったため、姜澄は当然のように“兄”らしい態度になる。

姜湛は手に持った大型スマホを操作し、文字入力を終えると、機械音声が流れた。

「車が園内に入ったところで故障したので、歩いてきた。」

姜澄は渋々ながら納得し、家へ入ろうとした姜湛の後を追う。

姜瀚は背中を見つめ、しばらくして低く呟いた。

「学校の手続きがある。先に帰る。」

姜澄は即座に振り返り、苛立った声を上げる。

「今帰るって何だよ!こんな時くらい残れ!兄貴が帰ってきたんだ、家に入るぞ!」

そして姜栩栩のほうを向き、さすがに彼女にだけは口調を和らげる。

「えっと……こっちが姜湛。君の三従兄だ。学校が急ぎじゃなけりゃ、今日は一緒にいろよ。」

珍しく、姜栩栩は反発せず、そのまま家へついていった。

理由は簡単だった。

――初めて会ったこの従兄に、妙に気になる“気配”があったから。

本来今日、三人とも家を出る予定だったが、姜湛の帰宅で予定は総崩れになった。

執事はすぐ姜禹民へ連絡。姜澄と姜老太太の件があり、ここ数日家の者はほぼ会社を休んでいたため、今日だけは全員外出しているらしい。

だが、姜老太太と姜老爺は姜湛が戻ったと聞き、わざわざ顔を見に来た。

玄関での騒ぎも耳に入っていたが、そんな小事に老爺が出る必要もなく、姜老太太も路家にどう向き合えばいいかわからず避けていた。

心では“あの夫婦は悪くない”とわかっている。だが――あれほど大切にしていた姜家の孫を傷つけかけた相手の家とは、これ以上関わりたくない。

もう、怖いのだ。

姜湛に対しては、距離はあったが、祖母としての情はある。

生まれた時から病弱で、声まで失い、あまりにも不憫だった。姜老太太はそのことで長く姚琳を責めた。当時、彼女自身気持ちが不安定で、息子夫婦にも厳しく当たっていた。

姚琳は元々姜家に歓迎されていたわけではなく、立場も弱かった。その上、姑から冷たくされ、夫も忙しい。彼女が姜湛と距離を置くようになったのは“意図的”というより“追い詰められた結果”だった。

ただ――本当に姚琳の心が姜湛から離れた理由は別にあった。

姜禹城の妻、すなわち姜淮と姜栩栩の母の存在だ。

当時、姜栩栩はまだ生まれておらず、姜淮の母が長男の嫁として姜家にいた。彼女は体の弱い姜湛を気にかけ、自然と目を配っていた。

幼い姜湛は敏感な子で、誰が優しいかすぐに気づく。だから、より彼女に懐いた。

それが姚琳の心の傷を深めた。

“夫はあの女が好きで、息子までその女を選ぶのか。”

そんな思いが、彼女をますます姜湛から遠ざけた。

姜湛は声を失ってからさらに殻に閉じこもり、母の気持ちに気づいても、どうすることもできなかった。

そして母子の関係は完全に冷え切った。

数日前、姚琳と姜禹民は正式に離婚し、彼女は国外へ“研修”の名目で出ることになった。

姜老爺は最後に母子で顔を合わせる機会を作ろうと協力したが――

姜湛は拒否した。

姚琳も、彼を見に行くことを拒んだ。

そして――彼女が姜家を出たその日。

姜湛は、ひっそりと、一人で姜家へ戻ってきたのだった。

「迎えに行かせたときは帰らなかったのに……帰るなら一言くらい言いなさいよ。療養院の連中は何をやってるのかね。」

姜老太太はぶつぶつと文句を言いながらも、しばらくしてふと隣を見る。

そこには姜栩栩がいた。

しばし迷い、気恥ずかしそうに声をかける。

「……栩栩、こっちへいらっしゃい。従兄に、挨拶しなさい。」
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