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ミスティVSアイリーン
しおりを挟むやって来たのは、砲台ケヤキのある中庭。
オディットくんとオレが運命の出会いをしたあの場所である。
オレは無理言ってオディットくんの昔の従者服をかっぱらい、身につけている。ぶかぶかの白シャツは腕をまくって髪ゴムで止めて、ズボンも折って折ってその上でゴムを使って止めた。
不格好だが、なかなか動きやすいぜ。いつも着ているのがビラビラドレスだからなのもあると思うけど開放感がすごい。腰まである長い髪に関してはオディットくんがすっと現れて、猫耳みたいな形のお団子に整えてくれた。動きやすくて良い!流石オディットくんだな。
この髪型にしたオディットにゼロセブンとミスティからなんとも言えない視線が送られていたが気のせいだろう。
オレはそんな外野を気にせず準備運動を始める。オレが向こうの世界でやってた喧嘩はナイフ、鉄パイプ等々なんでもありの乱闘が多かったが、オレには常にステゴロだった。全く使わなかったのか?と言われればNOなのだが、なんとなく自分の拳や足を武器にして戦う方が気分が上がった。オレは軽くジャンプしながら、これ足にヒールを掛けながらジャンプしたら高く飛べたりしないかな…なんて。
「ぉおおお!飛べる!」
「アイリーン様!まだ無理はなさらずに!」
足に集中してヒールをかけて軽く跳ねたら一足飛びに砲台ケヤキのてっぺんまで来ることができた。なるほど。便利だな、ヒール。
オレは心配そうにこちらを見上げるオディットに手を振って、ふわっと飛び降りる。ぎょっとしたオディットくんが思わず手を広げて近寄ってくるけど、無用な心配だぜ。
オレは「とう!」と掛け声を上げて前方に一回転してから、すとっと中庭に降りた。
「どうだ!空中一回転、着地は満点だろ!」
オレはニカッと笑ってオディットに駆け寄ったが、オディットからは熱いハグが返された。…そこまで感激してくれなくてもいいんだぞ。
「アイリーン様…」
「お、おう…」
「アイリーン様が強いお方だとはわかっておりますが、あなたがいなくなれば私はただのげーむきゃらに戻るしかないことを…私がそのことにとても恐怖を抱いていることをどうか忘れないでくださいね」
「オディットくん…」
震えが伝わるオディットくんの腕をぽんぽんと撫でる。
そうだよな。オレはこの世界の住人じゃないけど、オディットくんは向こうの世界の存在を知ってしまったゲームのキャラクターなのだ。どこまでが作られていて、どこからか本当の自分なのか、わからなくなる恐怖はオレには計り知れないものだろう。…ちょっとはしゃぎすぎてしまったかな。
オレはオディットくんの頭をぽんぽんと叩いて、大丈夫だよ、と伝える。
「オレがこんなシナリオぶっ壊して、オディットがオディットとして自由に生きられるようにしてやるから。もちろん一人じゃ無理だろうから、ちゃんとお前の力も貸して貰うからな!そんで一つ約束だ。…オレはきっとお前より先に死なないよ」
「姫-!」とオレを呼ぶミスティの声が聞こえる。
オレはなるべく安心させるような笑顔でオディットに言う。
「そのことをミスティに勝って証明してみせるぜ!」
■
「オディットさんはいいのかい?」
「大丈夫、オレがけちょんけちょんにやられないか心配だっただけだから」
「呵々!そりゃ、けちょんけちょんにされてしもうでな!無用な心配ではあるまいよ」
中庭の中心に、…これはゼロセブンが機械の方の足で削ったのか?芝生が剥がれて雑に線が二本出来ていた。
「今回は自由に打ち込んでよしってことだから、最初の位置だけね。こっちに姫様、こっちにミスティ」
「ほいっと」
「うむ」
きっちり審判までやってくれるのかゼロセブンは砲台ケヤキの横に立ちなにやら四角い箱まで持っている。
「時間制限はなし。どちらかが降参するか、オレがやばいと思ったら止める。今日は姫様の実力をみるっていうのが本来の目的だから…ミスティ」
「なんじゃあ!いくらわしが戦い好きだからと言って、幼気な姫一人いじめたりせんよ」
不機嫌そうにそういうミスティに、オレは声を掛けた。
「なら、もしオレがミスティから一本取れたらご褒美欲しいな!」
そう、ご褒美。この勝負、負ける気はさらさらないが、勝つならなにか報奨が欲しいものである。
ミスティの『城に大事に育てられたお姫様』ってのがなんとなくカチンとかムカチンとくるのだ。もし、これに勝てたら城下町に連れて行ってもらう。これは確定報酬だ。
「だけど、オレだけご褒美貰うってのもあれだからな。ミスティは武器使用してくれよ」
「…ほう?それはわしを舐めているのか?」
「違うよ。この戦いでは殺し合いじゃない。なら、素人のオレ相手に武器を持って傷つけず殺さずのし合いをさせたほうがオレの勝率が上がる。ついでにミスティは縛りプレイでテンション上がったり…しない?」
オレに有利なルールばかりだ。オレははらはらしながらミスティの出方を探るが、うむ、それは面白いな!と力強く声が聞こえてまず安心する。
「よし。その申し出受けよう!わしが使うのはこのナイフじゃ!切れ味も抜群、羽のように軽く鉄をも切る「機人族の最高の逸品なんだ」
「馬鹿者!そこで邪魔するでない!」
ミスティが取り出した美しい白銀のナイフに、ゼロセブンが後ろからにょっと現れ解説をする。
なんでも希少な金属を使い、天翼族の羽と鋳造した特別製の鋼を使っているとか。
オレはそれをふむふむと聞きつつ、丁度いい、と舌なめずりをした。
向こうの世界で見かけない武器なんかが出されたら不利だったが、ナイフなら対処のしようがある。
オレはゼロセブンが作った線の片方に立つ。
ミスティも太く怜悧な足の鉤爪で線に立つ。
「いくよ…ファイ!」
ゼロセブンの声と共にオレは全身にヒールを施し、ミスティの側頭部を狙って蹴り上げる。ガツ、と重い肉のぶつかる音が響く。もちろんミスティはそんな攻撃当たり前のように防御し、笑っている。
「なんじゃあ、羽虫の蹴りかの?」
「王女様の蹴りですわよ!」
なんて普段使わない言葉遣いで煽りながら、右、右、左、と細かく加速させた拳を流していく。もちろん、オレもミスティも本気になっていない。いわば様子見の段階だ。相手がどれだけ自分を楽しませてくれる存在なのか、その品評会をオレたちは戦いながら行なっている。
ミスティの鉤爪がオレの横腹を抉る。が、そのままヒールを腹にかけて硬質化を狙ってみる。
「…なんと!?」
「っしゃ!」
薄く一枚皮膚が破れたが、肉は抉れず逆に鉤爪にダメージが入ったようだった。なるほど、強く掛ければ掛けるほど硬質化などの効果も現れる…と。一つ良い情報ゲットだな。
オレは若干本気になったミスティがナイフを使い攻撃してくるのを避けながら、さて、と考える。
もう一つ実験したいことがあるのだ。
それは自分自身の回復速度だ。ちらっと見た感じ、皮膚が切れた横腹はもう綺麗なものになっている。
もし、オレ自身がヒールを全身にかけているときに、欠落や損傷があっても治るというのなら…オディットを安心させる一つの材料にならないだろうか。
だから、ここは…と。
「ええい、ちょこまかと逃げるだけか!」
「まさか!勝利を頂くための考え事だ!」
オレは真っ直ぐ向かってくるナイフを、左手でずらそうとして…そのまま手のひらで受ける!
「なっ!」
ざっくりとオレの手のひらを貫くナイフにさすがのミスティも一瞬動きが止まる。それを狙って、ナイフが刺さったままの左手を強く引き、バランスを崩したミスティの顎裏に一発きついのを…、
「ストップ!!!!」
ピタ、と今にも蹴り抜こうとしてたつま先がゼロセブンの制止で止まる。
なんだ一本取れそうだったのに。
オレは、刺さったままのナイフをおもむろに抜いて、血を払う。
すると、予想通り一瞬の逆再生で手の傷はふさがり、傷跡も突っ張るような感じもなく、完璧に治ったのだった。
…やっぱりこれ切り離してもくっついたりしないかな?
まじまじと手のひらをみるオレに、ゼロセブンとミスティが近寄ってくる。
「呵々!この仕合、わしの"傷つけず"というゲームでも、通常の一本取る、と言った意味でも負けてしもうたな!箱入りの姫と侮辱したこと、心より詫びよう。───そして、改めて。天翼族の長ミスティ・ノーグは姫を裏切ることのない永遠の伴侶になると誓う」
ミスティはその場に跪くと、白銀の羽を広げ、オレをナイフが刺さっていた方の手を取り、キスをした。
神聖なその光景にオレの頬が思わずぽぽっと赤くなる。
「ふ、愛いものよ」
「そんなことより、手は本当になんともないの?」
ゼロセブンはミスティの手からオレの手を取り、裏表に返して、血はおろか傷跡一つないことを確認して、ほっと息を吐く。
「姫様が丈夫なのはわかったけど、どの程度大丈夫なのかわかってから行動して欲しかったな」
「そのための仕合だろう!」
「そうとも言えるけど…ほら、あそこでしょげてるキミの執事、どうにかしてあげなよ」
お、そうだな。
遠目にも萎れているのがわかるのがちょっと面白いが、オレは大声でオディットくんを呼ぶ。
「勝利したぞ!そして優勝商品は『城下町でオレとデート券』だ!」
と、この思いつきで城の中が阿鼻叫喚につつまれ、バッタンドッタンと一騒動起きることになるのだが…今はまだ知らないことである。
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