元ヤンは公爵令嬢の姐さんに一生ついていきます

桜杜あさひ

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あたしの夢が……

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「んっ……まぶし」
 美咲は目をこすりながら起き上がった。
 寝ぼけ眼で周りを見渡すと、そこは明らかに日本とは思えない部屋だった。
 まず感じたのは広さ――美咲が住んでいたアパートの4倍はありそうだ。薄緑色とクリーム色を基調とした内装は柔らかい印象を与える。美咲が寝ていたベッドは四隅に木製の支柱があり天蓋付きだ。

「なんだこれ、お姫様みたいなベッドだな」
 ふぁあ、と大きくあくびをして体を伸ばす。
 目線を体に落とすと異変に気付く。

「あ、あたしの……特攻服があああああ!!」

 美咲にとっては誇りともいえる特攻服がなくなっていた。足をもぞもぞするとズボンも履いていないことがわかる。

「ひゃっ、ななななんで、あたしこんな格好なんだ⁉」
 寝ぼけていた目がさらに見開かれる。

「はわわわわ、お客様が起きられましたっ、お嬢様に報告しないと」

 美咲が部屋の扉の方を見ると、メイド服を着た少女が慌てている。部屋の扉を開けたまま少女は去ってしまった。

「なんだ今の。――それよりどこなんだ、ここ」

 ベッドから降りてもう一度体を伸ばすと後ろの方から声がした。

「あら、あなた起きたの? 体は大丈夫?」

 美しい少女だった。腰まで伸びる金髪、すらりと伸びる四肢、整った顔立ち、どれをとっても今まで美咲が見た女性の中で最上級に綺麗だ。

 (どひゃあああ、とんでもない美人だ)

 思わず見とれてしまった美咲は咳払いをして胸を張る。

「ごほん、あんた、誰なんだ? そして、ここはどこなんだ?」

 そう聞かれた金髪の少女は少し微笑み、口を開く。

「私はマイア・ヒューズ。混乱してるようね」
 マイアは美咲に近づきながら続ける。

「それより私も知りたいことがあるわ。あなたはどこの誰で、なんであんなところにいたの?」
 
「そうだな、私は藤堂美咲。『タピオカミルクティー』の№2だ!」

 下着姿で高々と名を名乗る美咲。ふふ、と笑うマイア。

「あなた、やっぱり面白いわ。あの変な服といい――」

「あんた、あたしの特攻服どこにあるか知ってるのか⁉」

 すごい形相で迫る美咲だが、マイアは動じることなく答える。

「あの服は侍女に洗濯させたわ。今日はいい天気だからすぐ乾くはずよ」

 ぱあっと顔が明るくなる美咲。

「あんた……いい人だな! ありがとう! ん?いい天気?」

 今まで気にしていなかった事実が発覚する。美咲は窓を開け外を確認する。雲一つない空、柔らかな風が美咲の肌をなでる。

 (さっきまで夜だったはず。あれ? じゃあ今日が関東制圧の日⁉)

「……なぁあんた、今日って何日だ?」

「今日は人類歴1560年の5月5日ね。それがどうかしたの?」

 ――な、人類歴? いつからそんな歴史になったんだ。でも何月何日っていう言い方は同じだな。まさか、からかってるのか。いや、でもこいつは特攻服を洗ってくれたしな……
 考えても答えは出ず、別の疑問が浮かんでくる。

「あれ、葵姐さんは? あたしと一緒に誰かいなかったか?」

 きょとんした顔をしたマイアは首をかしげる。

「私が見つけたのはあなた一人だったわね。その人も一緒にいたの?」

「ああ、一緒にいたんだ。あの人と関東制圧して、その次は日本のテッペンをとるって約束したんだ」

 瞳をキラキラとさせて夢を語る美咲。しかし、ますます首をかしげるマイア。

「カントウ? 二ホン? 場所かしら。あぁ、そういえばさっきここはどこかって聞いたわね。ここはアルシア王国のヒューズ公爵領の屋敷よ。」

「なんだ、あんた外人さんか。……ん? アルシア王国? そんな国あったっけ?」

 急に嫌な予感がした。
 というのも美咲は家にいるときはよくケータイ小説を読んでいる。ジャンルは恋愛ものがほとんどだったが、先日たまたま読んだ小説が異世界に転移してしまう話だったのだ。これはまさかと思って、

「はは、なぁ、ここって地球っていう星、だよな……?」

 いつも明るい顔が多い美咲だが、今はその顔が引きつっている。

「おかしなことを聞くわね? この星はアルカディア。人が取り戻した世界よ」

「……アルカディア? え、じゃあ、関東制圧は……?」

「カントウという地域や国は聞いたことないし、少なくともこの国にはないわね」

「うっそおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 
 ……あたしの、あたしたちの……夢が……

 美咲はあるはずのない地球のほうを見て涙目になる。
 ――葵姐さん、どうやらあたしは異世界に来てしまったようです。



 
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