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登校前夜
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ミサキはヒューズ家の庭の一角に備え付けられたベンチに腰掛け、星を眺めていた。
こうしてみると自分が異世界に来たんだと実感する。
「月、何個あるんだよ」
見上げる空には大小さまざまな4つの月。ミサキに驚くといった様子はなくどこか物憂げな表情だ。この屋敷で働くようになってから2週間が過ぎようとしていた。
「はぁ……これからどうするかなぁ」
実のところミサキは参っていた。夢目前からの異世界転移、葵との別れ。
葵は自分に居場所をくれた人だった。
家に帰ればケンカの絶えない両親。学校でも浮いていた。あまり考えこまない性格だが、少し限界が来ていたのかもしれない。ある日、家出をして夜景を見るために高いところを目指した。目的地などなくてどこか遠くに行きたかった。
あの人と出会ったのはそんな時だった。彼女は初対面の金もなく夜道を彷徨う少女を「なんか寂しそうだったから」という理由で唐突にバイクの後ろに乗せ、いろんな場所を連れまわした。
今思えば軽い誘拐だが、不器用な彼女なりに少女を元気づけたかったんだろう。そんなところに惚れこんだ。
それからは2人はいつも一緒だった。葵が「関東制圧して日本も獲る」と宣言した時も、バイクで海に突っ込んで死にかけた時も、どんな時も2人は笑っていた。
「どうすればいいんすかね……葵姐さん」
あの人のことなら心配はない。仲間も大勢いるし関東制覇だってするだろう。
ただ、そこに自分がいないことが寂しく感じられた。
感傷的になっているミサキに歩み寄る足音がした。音の主を認識したミサキは少し微笑む。
「あ、姐さん。お疲れ様です」
そこには先ほどまで木剣を振り回していたであろうマイアがいた。
普段のドレスといった格好ではなく鍛練用の服装をしている。鍛練用と言ってもドレスの亜種といった感じで上下の服が分かれ動きやすい仕様になっている。
「どうしたのミサキ、元気がないようだけど」
頬を伝う汗をタオルで拭きながらマイアは心配そうに聞く。
「大丈夫っすよ。ちょっと星を眺めてたんです」
二カッと笑うミサキの表情に先ほどまでの寂しさは見えない。
ミサキはこの美しい少女に救われていた。訳も分からず異世界に来てしまった。一度は手にした自分の居場所をなくした。それでも独りぼっちにならなかったのは、この少女のおかげだ。
「ふふ、そうなのね。私はてっきり泣き出すと思ってたわ」
「な。そんなことはないっすよ! ただホントに違うところに来たんだなぁって、ただそれだけっす!」
弁明しても少女は笑っていた。不思議とこの少女にからかわれるのは嫌いではない。やり取り全てが心地よく思える。
「じゃあ、夜も遅いし屋敷に戻りましょう? あ、でもその前に私はお風呂入らなきゃ」
ミサキも一緒に入る? と誘うマイアの言葉に頬を赤く染めるミサキ。
「あら、意外と初心なのね」
「は、入りますよ、一緒に! 姐さんもあたしのナイスバディを見て自信なくさないでくださいね」
ニヤニヤするマイヤに対してミサキも反撃する。
「へえ? じゃあそのあなたの自慢の体、私がくまなく洗ってあげるわ」
「もう姐さん! それ以上からかわないでください!」
ミサキはそう言いながらも少し笑っていた。
肌に触れる風が今はここが自分の居場所なのだと、そう言ってくれている気がする。
「まぁ、今は頑張ってみるか」
ミサキの声は明るさを取り戻していた。
こうしてみると自分が異世界に来たんだと実感する。
「月、何個あるんだよ」
見上げる空には大小さまざまな4つの月。ミサキに驚くといった様子はなくどこか物憂げな表情だ。この屋敷で働くようになってから2週間が過ぎようとしていた。
「はぁ……これからどうするかなぁ」
実のところミサキは参っていた。夢目前からの異世界転移、葵との別れ。
葵は自分に居場所をくれた人だった。
家に帰ればケンカの絶えない両親。学校でも浮いていた。あまり考えこまない性格だが、少し限界が来ていたのかもしれない。ある日、家出をして夜景を見るために高いところを目指した。目的地などなくてどこか遠くに行きたかった。
あの人と出会ったのはそんな時だった。彼女は初対面の金もなく夜道を彷徨う少女を「なんか寂しそうだったから」という理由で唐突にバイクの後ろに乗せ、いろんな場所を連れまわした。
今思えば軽い誘拐だが、不器用な彼女なりに少女を元気づけたかったんだろう。そんなところに惚れこんだ。
それからは2人はいつも一緒だった。葵が「関東制圧して日本も獲る」と宣言した時も、バイクで海に突っ込んで死にかけた時も、どんな時も2人は笑っていた。
「どうすればいいんすかね……葵姐さん」
あの人のことなら心配はない。仲間も大勢いるし関東制覇だってするだろう。
ただ、そこに自分がいないことが寂しく感じられた。
感傷的になっているミサキに歩み寄る足音がした。音の主を認識したミサキは少し微笑む。
「あ、姐さん。お疲れ様です」
そこには先ほどまで木剣を振り回していたであろうマイアがいた。
普段のドレスといった格好ではなく鍛練用の服装をしている。鍛練用と言ってもドレスの亜種といった感じで上下の服が分かれ動きやすい仕様になっている。
「どうしたのミサキ、元気がないようだけど」
頬を伝う汗をタオルで拭きながらマイアは心配そうに聞く。
「大丈夫っすよ。ちょっと星を眺めてたんです」
二カッと笑うミサキの表情に先ほどまでの寂しさは見えない。
ミサキはこの美しい少女に救われていた。訳も分からず異世界に来てしまった。一度は手にした自分の居場所をなくした。それでも独りぼっちにならなかったのは、この少女のおかげだ。
「ふふ、そうなのね。私はてっきり泣き出すと思ってたわ」
「な。そんなことはないっすよ! ただホントに違うところに来たんだなぁって、ただそれだけっす!」
弁明しても少女は笑っていた。不思議とこの少女にからかわれるのは嫌いではない。やり取り全てが心地よく思える。
「じゃあ、夜も遅いし屋敷に戻りましょう? あ、でもその前に私はお風呂入らなきゃ」
ミサキも一緒に入る? と誘うマイアの言葉に頬を赤く染めるミサキ。
「あら、意外と初心なのね」
「は、入りますよ、一緒に! 姐さんもあたしのナイスバディを見て自信なくさないでくださいね」
ニヤニヤするマイヤに対してミサキも反撃する。
「へえ? じゃあそのあなたの自慢の体、私がくまなく洗ってあげるわ」
「もう姐さん! それ以上からかわないでください!」
ミサキはそう言いながらも少し笑っていた。
肌に触れる風が今はここが自分の居場所なのだと、そう言ってくれている気がする。
「まぁ、今は頑張ってみるか」
ミサキの声は明るさを取り戻していた。
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