梅雨の様なこんな雨の日に

はなおくら

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 わたしはそれに縋る。

 純潔を失って彼との思い出を汚すよりいいと考えていた。

 それからわたしは外の情報を知らないまま、お客の相手をしている。

 言葉巧みにお客を喜んでもらい、事をせずにいる。

 今は強引な人もおらずうまくいっている。

 半年後、懇意にしてくれるお客も増えてきた。

 その時初めて王都の話をお客から聞くことができた。

 先代の国王が亡くなってから、王太子が今の国王として君臨しているとのこと。

 そして宰相は婚約者と仲睦まじくしていると教えてくれた。

 彼はわたしを忘れたのかしらと、少し寂しいような切ない気持ちになる。

 そうして私は、ここへきてから3年の月日が流れた。

 貴族ではもう行き遅れと言われる年齢になるが、娼館では関係がない。

 窓から遠くを見つめて懐かしいあの日を思い出す。

 ツーリーと手を繋いで走り回り、一緒に大きくなった。

 今では笑い合って過ごしていたあの頃がとてつもなく懐かしい。

 もうリリアナと結婚して、わたしを忘れているだろう。

 月日が経つに連れて諦めが出てきていた。

「会いたいな…。」

 そうしてわたしは今もなんとか自分を守ってきている。

 ロジーさんには、笑われるけれど嫌ではない。

 彼女は何かしら気を回してくれるため、今もやって来れている。

 そんなある日、懇意にしているお客さんから店側に依頼があった。

 平民では入れない大きな演奏会が開かれるのだが、パートナーが必要なため私の同伴の依頼があった。

 亭主は大金をもらいそれを良しとしたのだ。

 わたしは突然の事に驚きつつも、不思議な感覚がした。

 外の世界に出ることが、久しぶりで怖くもあり、楽しみでもあった。

 そしてもしかしたらツーリーと会ってしまうのではないか、ありえないとわかりつつ何処か期待してしまう自分がいた。

 そして約束の日、お客の腕に手を回して際どい真っ赤なドレスに身を包む。

 そして大きなセンスで顔を隠して彼と会場に入った。

 さすが貴族の集まる場所だった。

 一つ一つの席が観客のプライベートルームの様になっていて周りがわかりづらくなっている。

 顔を合わす事になるとすれば化粧室が、移動する時の廊下ぐらいだろう。

「ナナ、今日もセクシーだな。」

 お客はわたしの体を舐める様に見てくる。

 不快に思いつつも笑顔で言う。

「喜んでいただけて嬉しいわ。もう行きましょう…。」

 そういってお客の手に体事絡ませる様に手を回した時だった。

 ふと横を見ると、そこにはツーリーとリリアナがいた。

 向こうはこちらに気づいていない様子だ。
 わたしは逃げる様に、お客の用意した席へと向かったのだった。

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