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「失礼、私の事で揉めてしまっている様なので口を挟むご無礼お許しください。…ですが、わたしは宰相様の様な方がお話しできる身分のものではありません。時間がありますので失礼します。」
「待て!」
呼び止められたが、このやりとりを見ていたリリアナが不機嫌になりツーリーを責め立ててくれたおかげでこの場を離れることができた。
それからお客に送られてまた普段の日常に戻った。
ツーリーと出会ってまた胸を高鳴らせている自分がいる。
嫌な別れであったがこれ以上文句はない。
そう満足した矢先の事だった。
突然亭主に呼ばれて、彼の元へ訪れると亭主は相変わらず冷たい視線で言う。
「お前に会いたいと言う方がいらっしゃる。しかし相手の身分で関わらせるにはまずいのだ。何をいっても突っぱねて断る様に。」
突然の事で何を言われてるのかわからない。
とりあえず言われた事に頷きながら、わたしは、わたしに会いたいと言う人物のいる部屋に向かった。
ドアを開けると息が止まるかと思った。
目の前には、真剣な面持ちのツーリーが護衛2人の間のソファに座っている。
わたしは素知らぬ顔をして部屋に入った。
「わたしをお呼びと聞きましたが。」
凛とした態度でそう言うと、ツーリーは厳しい表情のまま護衛に出ていく様指示を出した。
2人だけの部屋の中、静寂が巻き起こる。
「ナナ…ナナじゃないのか?」
「っ…!」
突然名前を呼ばれたが、わたしは澄ました顔を維持した。
「何をおっしゃいます。わたしはしがない娼婦です。あなたのことなんて知りません。」
「嘘だ…なんでそんな嘘をつくんだよっ!!」
ツーリーは立ち上がりわたしの足元に崩れ落ちる様にしゃがみながら涙を流して懇願してくる。
その光景に胸が痛くなる。
昔のわたしならこんな事をしてはいけないと戒めているが、今はそれができない。
「その方のことは存じ上げませんが、あなたの様な身分の方がこの様に会いに来られては迷惑です。お引き取りください。」
「ナナっ…まってくれっ!」
彼に背を向けて部屋を出て行こうとした時だった。
「今でも俺のことを愛してるだろっ…⁉︎俺はずっとお前だけだっ…どんなお前でも愛してるっ…だからっ!」
嬉しくて泣きたくなる気持ちを抑えて、わたしは冷たい視線を彼に送った。
「その様なことをされては迷惑ですっ…もうこれ以上関わらないでっ‼︎」
わたしは彼の目を見ずに部屋を出ていった。
彼を巻き込めない、もう昔の様には戻れない。
ようやく自分の部屋に入って溢れてきた気持ちが涙を通して流れていった。
「待て!」
呼び止められたが、このやりとりを見ていたリリアナが不機嫌になりツーリーを責め立ててくれたおかげでこの場を離れることができた。
それからお客に送られてまた普段の日常に戻った。
ツーリーと出会ってまた胸を高鳴らせている自分がいる。
嫌な別れであったがこれ以上文句はない。
そう満足した矢先の事だった。
突然亭主に呼ばれて、彼の元へ訪れると亭主は相変わらず冷たい視線で言う。
「お前に会いたいと言う方がいらっしゃる。しかし相手の身分で関わらせるにはまずいのだ。何をいっても突っぱねて断る様に。」
突然の事で何を言われてるのかわからない。
とりあえず言われた事に頷きながら、わたしは、わたしに会いたいと言う人物のいる部屋に向かった。
ドアを開けると息が止まるかと思った。
目の前には、真剣な面持ちのツーリーが護衛2人の間のソファに座っている。
わたしは素知らぬ顔をして部屋に入った。
「わたしをお呼びと聞きましたが。」
凛とした態度でそう言うと、ツーリーは厳しい表情のまま護衛に出ていく様指示を出した。
2人だけの部屋の中、静寂が巻き起こる。
「ナナ…ナナじゃないのか?」
「っ…!」
突然名前を呼ばれたが、わたしは澄ました顔を維持した。
「何をおっしゃいます。わたしはしがない娼婦です。あなたのことなんて知りません。」
「嘘だ…なんでそんな嘘をつくんだよっ!!」
ツーリーは立ち上がりわたしの足元に崩れ落ちる様にしゃがみながら涙を流して懇願してくる。
その光景に胸が痛くなる。
昔のわたしならこんな事をしてはいけないと戒めているが、今はそれができない。
「その方のことは存じ上げませんが、あなたの様な身分の方がこの様に会いに来られては迷惑です。お引き取りください。」
「ナナっ…まってくれっ!」
彼に背を向けて部屋を出て行こうとした時だった。
「今でも俺のことを愛してるだろっ…⁉︎俺はずっとお前だけだっ…どんなお前でも愛してるっ…だからっ!」
嬉しくて泣きたくなる気持ちを抑えて、わたしは冷たい視線を彼に送った。
「その様なことをされては迷惑ですっ…もうこれ以上関わらないでっ‼︎」
わたしは彼の目を見ずに部屋を出ていった。
彼を巻き込めない、もう昔の様には戻れない。
ようやく自分の部屋に入って溢れてきた気持ちが涙を通して流れていった。
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