愛した人は悪い人

はなおくら

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 ここはエルモア領、国の半分の広大な土地を持つ所だ。

 その中のとある小さな小屋に笑顔の絶えない少女がいた。

 名前をジーヌと言った。平民の少女は貧しくも小さな畑で生活をしていた。ジーヌは父と母と冷たい食事でも一緒に食べることが一番の幸せだった。

 しかしそんな彼女の幸せは壊れていく。

 領民たちを大切にしていた領主が亡くなり、その息子が若くして後を継いだ。最初の頃はよかったもののある日を境に年貢を倍支払わなくてはならなくなった。

 そのせいでジーヌの家族は畑のものをほとんど収めなくてはならなくなり、自分たちの食べるものも良くて二週間に一回じゃがいもを3人で分け合っていた。

 ジーヌの父と母はどれだけ腹が空いていようとジーヌに食べさせて、笑顔を絶やさず娘を不安にさせないようにと、精を出して働いていた。

 それに続きジーヌもいつかいい時が来ると信じて手伝い働いた。

 しかしそんな想いも虚しくみるみると痩せ細っていく両親を目にして怒りが込み上げてきていた。

 どうして自分たちがこんな目に会わなきゃいけないのか。しかし少女は幼く、大人の事情もわからなかった。

 そんなある日、力無く母が倒れた。ジーヌは精一杯看病したが母は亡くなった。

「誰も恨んじゃダメ…笑って…。」

 そう言ってジーヌの頭を撫でたまま逝ったのだ。

 悲しみを糧に父と2人で畑仕事に明け暮れていたが今度は父までもが倒れた。

 ジーヌは神様にすがった。父を連れて行かないで欲しい。

 そんな願いも虚しく、父は亡くなった。やはり亡くなる時の父も母と同じ言葉を残して涙を流していた。

 1人になり、何もやる気が起きなくなった。笑顔の絶えない少女の顔から笑顔が消えた。

 もう笑える気力もなく、両親を亡くした喪失感を受け止め切れないほど心と体がこたえていた。

 そうしてどれくらい家の中にいたのか、ある日見知らぬ大人が来てこういった。

「両親はもういないんだ。働けねぇガキはとっとと出ていけ!」

 そういうとジーヌの首根っこを持ち上げて家の外に投げ出されてしまった。

 この時外は真冬、雪は降っていないが冷たい風が肌に容赦なく触れる。

 投げ出された衝撃で足や腕に擦り傷が…。

 ジーヌはもう自暴自棄になっていたのだろう。

 このまま歩いていれば、いつかお父さんとお母さんのところへいけるかもしれない…。

 足を引きずりながら歩き出す。いく当てもなく、目的もなく、少女は大好きな両親を思い浮かべて歩いていく。

 いつのまにか林の中を歩いていたが、足が動かなくなりその場に座り込んだ。
 
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